「屋上行こう」
季節が過ぎるのは早いもので、新学期からもう一ヶ月が過ぎた。来月には学校創立記念を兼ねた学園祭の準備が始まるらしい。
その学園祭で展示する写真を撮るために、昼休みにもかかわらず写真部は今日もデジカメを片手に校内を歩き回っていた。
……写真部、といっても、慈海一人だが。
千紗は急遽委員会のことで呼び出されてしまい、慈海は一人の時間をもて余していた。
「どうしようかなぁ……」
慈海は人を撮るのが好きだ。しかし、根本的にコミュニケーション能力が低いので、貴重な昼休みに水をさしてまで誰かを撮りたいとは思わない。かといって無許可で撮影などそれこそあり得ない。
そうなると、撮るものは風景くらいだろうという結論に至る。
「……そういえば、屋上に出られるって噂聞いたな」
去年まで通っていた中学校は、というより大抵どこでもそうなのだろうが、屋上の扉は鍵がかかっていて生徒は自由に出入りすることなど出来なかった。ところが、この帝光中は屋上に出られるという。
あくまで噂で聞いただけで確証は無い。そもそも、鍵が開いていたとしてもあまり出入りする生徒は多くはないらしいので、むしろ半分くらいはガセのような気がしている。
「でもまぁ、ちょっと試しに行ってみるくらいいいかな。暇だし」
どうせ次の授業は音楽で、音楽室は校舎の最上階にある。授業の用意を持って行けば移動も楽というわけだ。もう、行かないという選択をする理由がない。
「よし、屋上行こう」
屋上へ通じる階段を上がり、扉の少しメッキの剥がれたドアノブを捻る。
扉を開けると、春らしい爽やかな風が緩やかに吹き抜けた。
「へぇ……いいとこじゃない」
風がとても気持ちよく、僅かに笑みを浮かべながら軽い足取りでフェンスに近づく。グラウンドにはサッカーを楽しむ男子生徒達の姿が見えた。
「あー、ああいうのもいいなー青春って感じで」
明日もサッカーをしているようなら、撮影の許可を貰おう。もちろん、一人で声を掛ける勇気は持ち合わせていない為、千紗も連れて。
今後の写真部の活動予定を組み立てたところで、慈海は歩き回りながら上下左右に視線を巡らす。
「何撮ろうかなぁ……」
迷ったように空を仰ぎ見て、空を撮ろうかと思い立った。しかし、屋上一帯を歩き回っても、気に入ったショットが見つからない。
「うーん……あ、」
階下へ続く扉を視界におさめ、更にその上に視線を持っていく。階段を守る屋根には、上に上れるように梯子がついていた。
(よし、あの上で寝そべって、一面の青空を撮ろう)
梯子に手をかけてから、スカートでは少し上りにくいかもしれないと思った。が、それでも上ることをやめない私は、「馬鹿と煙は高いところが好き」という言葉があるように馬鹿なのかもしれないと思った。
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「馬鹿と煙は高いところが好き」
この言葉だけで屋上に誰がいるか分かるのではないでしょうか。
そんな言葉がなくても分かるか←
2014.02.05
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