額縁の中の世界 | ナノ

「面白い話を求めているの」



 慈海はギャラリーに上がってから、見学中に十数枚写真を撮り、丁度休憩をしていた虹村に礼を言って体育館を出た。

 体育館を出る前、一瞬視界の端に随分とくたびれた黄瀬を見た気がしたのだが――わざわざ引き返してまで声を掛けるのも変だと思い、そのまま体育館を後にした。

「あ、慈海ちゃんやっと出てきたー」

 体育館を出て昇降口へ向かうと、千紗が来客用の傘立てに座って待っていた。

「千紗ちゃん、そこ座るとこじゃない」

「はいはーい」

 わざとらしく怒気を含ませた声音で言うと、千紗もわざとらしく肩を竦めて立ち上がる。

「待たせてごめんね」

「いいえー。つか、キセリョと何か話してたっぽかったけど、何話してたの?」

 歩きながら、横目で慈海の様子を窺いつつ千紗が問う。

 彼女の言う“キセリョ”が何のことなのか、きっちり三秒ほど考えて、話の文脈からそれが人であろうと漸く理解した。

「キセリョ……黄瀬君?」

「そっ」

 そんなに会話らしいことをしていただろうか。慈海は日が沈みきる少し前の赤紫色の空を見上げながら考える。

「……あ、なんか、私と千紗ちゃんのこと知ってたみたい」

 そういえば、と思い出したように言うと、千紗は眉間に皺を寄せた。

「は?……私は同じクラスだから知ってるだろうけど、何で慈海ちゃんのこと知ってんのよ」

「同じクラスの子が三年生とタメ口で話してたら記憶には残るんじゃない?私は気にしないけど、周りから見たら気になるのかもね」

「その場合って、タメ語で話されてる先輩より、タメ語で話す後輩に注意がいくと思うの」

「千紗ちゃんのことは知ってるんだから、『こいつ誰と話してんの』くらいには思うんじゃない?」

「思う止まりで、記憶はしないと思うの」

「千紗ちゃんは一体どこにたどり着きたいの」

「面白い話を求めているの」




 千紗との「ああ言えばこう言う」なやり取りに溜め息を吐きながら、慈海は帰りを待つ人のいない、冷えきった自宅への家路を歩いた。



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リアルが実習で死んでます。でも亀だけど地味に執筆してます。


2014.02.04


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