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 ――夢を、見た。

 たった一人で、何もない真っ白な空間をさ迷っていた。

 自分の足音も、呼吸音も、心音も、何も聞こえない。音が存在しない世界だった。

 まるで、ここは私の心の中。

 彼女は、自分でも納得してしまうくらい、空っぽな存在だった。

 自分の存在すら分からない。何もかも分からない。

 一度目覚めてから、分からないことだらけだった。



 ――…私は、誰?



 何処から来て、何処へ行くのか。

 彼女はまだ、さ迷い続ける。










「おい、まだ起きねぇのかこの愚図」

「ちょ、リヴァイ!蹴らない蹴らない!」

 腹部に蹴りを入れても、まるで死んでいるかのようにピクリともせずに横たわったままの女。

 巨人討伐の後に回収してきたこの女は、巨人を統率する能力を持っているかもしれない。その手段が分からないため、今は出来る限りの拘束をしてある。

 手を後ろで束ねて縛り、猿轡を噛ませ、目隠しもしてある。上腕部分も胸部に縫い付けるように縛り、大腿部分も同様に縛った。まるで芋虫のようだ。これでまず身動きは出来ないだろう。

「にしても、この状況だけ見たらまるで私達が人拐いみたいだよね!」

「うるせぇクソメガネ」

 先程まで女に蹴りを入れていた脚を隣に立つ眼鏡の女目掛けてお見舞いする。

 眼鏡の女――ハンジは馬鹿みたいな格好で跳び上がる。馬鹿なようでいて、リヴァイの動きを読み後方へ跳んで蹴りの衝撃を緩和するあたりは、何だかんだと調査兵団の主力部隊に入る人間である。

「そのくらいにしないか」

 エルヴィンの一言で、一瞬にして場が静まる。

「いつまでも此処にいても仕方がない。一度壁内に戻ることになった」

「こんな得体の知れないもんを壁内に、だと?」

 エルヴィンの言葉に、既に刻まれた眉間の皺を更に濃くして問うリヴァイ。

 まだこの女が人類の脅威ではないことが証明されていない。もし怪しい動きをしてもリヴァイなら即座に殺せるだろうが、上にはどう説明するつもりだろうか。

「分からないことは知るべきだ!そうは思わない?」

 不意に鼻息を荒くしたハンジが割って入る。女は既に、ハンジの飽くなき探求心の研究対象となったようだ。

「いつまでもここにいる訳にはいかない。しかし、彼女について我々は知るべきだと団長は判断した。私も同意見だ。彼女を壁内へ連れていく」

 そう言ってから、エルヴィンはリヴァイの目を見た。まるで異論を問われているようだ。

「――…分かった。お前の判断を信じよう」





 彼女の存在はまだ民衆には伏せるべきだという結論に至り、負傷兵に紛れて荷馬車に乗せた。あまり多くの兵にも知らせるべきではないというエルヴィンの考えで、大きな麻袋に入れてあるので荷物にしか見えない。

 そうして何の問題も起こらず無事に調査兵団本部に到着した。

「ねぇ団長!早速彼女と話してみたいんだけど、いい?いいよね!?」

 鼻息も荒くやって来たハンジ。

「話すも何も、まだ寝ているんだろう?随分長いこと寝こけてやがる」

 彼女はまだ死んだように横たわっていた。荷馬車はそれなりに揺れた筈だが、彼女が目を覚ます様子は無い。

 団長は女の扱いをエルヴィンに一任し、ハンジに「弄り過ぎて殺すなよ」と言い残し、帰還後の事後処理へと向かった。





2013.08.07


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