「――… , 」
突如現れた小柄な男性が、彼女に向かって口を開く。何か言っているようだが、残念ながら彼女が理解出来る言語ではなかった。
ただ、歓迎されていないことだけはわかった。
何より、男の人は怖い。
どうしてかは分からないが、彼女は彼が怖い訳ではなく、男性が怖いと思った。自分のことの筈なのに、全く感じたことの無い感情のように思えた。
倒れた巨人から蒸気が立ち上り、視界が遮られる。その隙にこの場から逃げ出してしまおうと思った。
素早く踵を返し、走り出す。が――、
『―――ッ!?』
もう一人いた、大柄な男に銀色に鈍く光る刃を突き付けられていた。
「 、 」
「 」
目が覚めてからずっと、分からないことだらけだった。何故刃を向けられているのか。彼女は恐怖で空回りする思考で必死に考えていた。
まず、彼らは何を話しているのだろうか。言葉が理解できないことが殊更に彼女の恐怖を煽る。
彼女は自らの肩を抱きながら踞った。
彼女の動きに彼らが僅かに反応を示した。殺されるのだろうか。
彼女は努めて、何も考えまいとした。自らの意識を殺した。それは、彼女が覚えている数少ない知識の一つだった。
彼女は一時的に、生ける屍と化した。
「ミケ、そのまま押さえておけ」
「あぁ」
壁外に人間がいた。この女が小型の巨人や人型の化け物でもなければ、これは初の壁外で生きる人類の発見だろう。
それだけならば、この女は人類の希望になり得たかもしれない。巨人に襲われずに生きる術があるのなら、それは現在人類が強く欲しているものだ。
しかし、女は巨人を集めていた可能性がある。巨人を統率する能力があるとしたら、それは人類の脅威となり得る。
――さぁ、お前は“どっち”だ?
リヴァイは詰問のために木から降り立ち、女の眼前まで緩やかな足取りで歩く。
巨人を目の当たりにしても動揺を微塵も見せず、歌などを歌っていた女が、涙を流して此方を見ていた。
リヴァイがすぐ目の前まで来ると、まるで糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちるように踞り、肩を抱いて震えだした。
『 、 …… 』
女が何か言葉を発した。それは囁くような声で、聞き取ることは出来なかった。
「おい、立て」
女に言う。が、反応がない。
「……おい、」
反応がない女を足蹴にすると、その身体は呆気なく地面に崩れ落ちた。
「……寝てんのか、こいつは」
「分からないが……息はあるようだ」
先程まで意思を称えていた目には光を感じない。今の女はまるで人形のようだった。
「チッ……面倒臭ぇ」
「どうする、リヴァイ」
「連れてくしかねぇだろ。吐くこと吐かせてから後のことは考える」
先ずはエルヴィンと団長に報告だ。リヴァイは女を連れてミケと共に隊へ戻った。
2013.07.11