貴方しかいない | ナノ




※言峰がストーカー変態ホモ


怖い。何はともあれ、とりあえず、怖い。
久しぶりにこんな思いをして、ポケットにつっこんだ手が震えている。
いつだって僕は敵を殺すときは裏から、陰から、視角から殺す。ましてや真っ向勝負など言語道断。

言峰綺礼は後ろから衛宮切嗣を追いかけていた。靴の音が路地裏という路地裏に響いて、近いのか遠いのかもわからない。ただ、逃げ道を探しながら全力で逃げ走る。
「…それ以上…っ…来るな…」
「…来るな?何を今更」
小声で呟いた言葉を言峰は安易に拾ってのけた。
「私が貴様に寄せる好意ぐらい気づいていただろう。それに部屋に私が侵入していたことも知っているはずだ」
「……ッ」
情けないが口を開閉させて顔を真っ赤にさせては蒼白を走りながら繰り返す。
そう、知っている。不覚にも僕が眠っている時に奴は僕の部屋に侵入した。もちろん気づくはずもない。そうして朝起きた時にはすっかり召し上がられていた。つまり、抱かれていた。
朝起きた時に、首にはキスマーク、太腿には噛み痕、背中にはひっかき傷。後孔には白濁。最悪だった。もちろんアイリに知らせるわけない。労りはするがきっと面白がるだろうと思ったから。
「知らない!!お前が僕への感情なんて関係な………っ!」


がつん。

骨が砕けるいびつな音と共にがくんと倒れ込む。黒鍵が飛んできて、脚に刺さったのだ。肩でゼエセエと喘息のような細い呼吸をするたびに、砂埃な口に入り込む。
地を這ってでも、動くことで出血しようとも、もがく。
あいつだけには絶対屈しない。絶対に。

「人間に絶対など、ないだろうに」

まるで見透かしたように言峰は吐いた。音なく近付いたらしく、上から聞こえた。しかしそれは衛宮にとってどうでもいいこと。痛みなどとうに慣れている。動かない片足を引きずりながら芋虫のように地を這う。砂利が口の中に入って苦かった。
僕は必ず家に帰る。妻の元へ。そしていずれは子の元へ。
だから、こんな、言峰綺礼に、屈しない。
――――どんなことがあっても。

這っているのに一向に進まないのは言峰が僕の襟を掴んでいると気づいたのはかなり後だった。襟を持ち、空を見上げる格好にさせられ、ようやく先ほど追いかけられていた時のようにヤバいと分かる。もちろん空を見上げるわけない。空を遮ったのは紛れもない言峰だった。
「は、…」
刺されてどれくらい経ったのか分からないが、血圧は徐々に低下して、そのうち出血性ショックでも起こして死ぬのか。などと流暢なことを考えていれば、頬に殴打をくらった。もう痛みはほぼない。口の中にじんわりと地の味がした。

「貴様は、私が貴様にかける想いなど到底分からないだろうからこの際告げてやる」

…何、と重い瞼を押し開けて、感情のない目を向ける。

「乱し泣かせ、犯して、汚して、私のものだけにして、愉悦の在処を、私は識る」

後半は聞こえなかった。意味も頭に入ってこない。寒くて、とにかく寒くて、もう、だめ、だ、と意識が途絶え掛けそうになった所で、太腿に言峰の手が添えられた。たぶん。
添えられたところから暖かくなった。

治癒。

一方的に宣言して、衛宮が治癒魔術を受けている間に幾度も、幾度も、言峰は衛宮の唇に触れる。戯れるようなその触れ方を衛宮は知らない。もうすでに気を失っていた。もちろん息は絶え絶えだが一応在る。
治癒を施しながら、少しでも私のものに馴染むようただの暗示であったが唇を交わす。かさかさして、湿っていないそこに何度も。何度も。潤いを施すように。
まるで死体を愛でるようなそれに、言峰は自嘲ぎみに笑った。


「必ず、手に入れる。それまで私は死なない。貴様も殺さない。空のない生活をせいぜい楽しめ、衛宮」

在る程度の治癒を施すと簡単に肩に担ぎ上げ、しなやかな太腿に愛しそうに唇を落とすのだった。


貴方しかいない

これが最後の希望だ。失うことなどしない。野放しにもしない。
―――私のものだ。





四次の綺礼にとって切嗣が唯一の希望で、どうしようもなく会いたい人で、でもふつうには会えなくて、それを糧に闘っていたのだと思うと泣けますね。サイコホモの綺礼ちゃん好きです



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