ツイッターろぐ3 | ナノ



「…っ」
口付けで全ての力を奪われ、重力に従うまま床に向かってガクンと頭が落ちる。腕で唇を拭って視界を閉ざす。荒すぎた口付けのせいでうつむきながら肩で呼吸するが、それも構わず露出した己の首筋に言峰は唇を付けて吸った。
そしてぼそりと呟く。
「…妬いた」
一瞬何の話かわからなかったが、数秒遅れて猫の話かと気づく。ようやくああそうだったのかと分かり、ふ、と声にだして笑う。
「…前に、猫に妬いて笑ってたのはどこのどいつだよ」
「………」
冗談と皮肉をこめて言ったつもりが返事は返ってこない。数ヵ月前のやり取りを思い起こして言葉が見つからないのだろう。久しぶりに味わう勝利に笑みを浮かべていると、しばらくして綺礼は僕の首筋から唇を呆気なく離した。顔を上げると先ほどの切羽詰まった、綺礼にしてはやけにかわいい顔が今や無表情に戻っている。
そうしてうつ伏せになった僕から離れて一度立ち上がり、背後へと回る。振り返り、えっ、と声だす間もなく綺礼は僕のお尻近くにいた。
嫌な予感が過る。
「………言峰、ご飯…」
腰を捻って振り向き、恐る恐る言う。
「平気だ」
「いや、何が平気かわからない」
「心配するな。こっちに集中しろ」
言峰がキッチンの方向へ目を向ける隙を狙い逃げようとするがそれを読んでいたかのようにあっさり腰を捕まれた。押さえつけられたと同時に有無を言わさずズボンのベルトを引き抜かれ、無造作にそれを捨てられた。ひっと息を飲む。まるで貰ったクリスマスプレゼントの包みを開封するような急いだ手つきでチャックを下ろし、ズボンを膝まで下げた。片手で腰を押さえつけられているだけなのに身動きがとれないとは何事か。
「た、たたんま!…待てよ!強姦する気か…!」
太股に跨がられると腰だけ高く上げられ四つん這いの格好にカッと頬が焼ける。満足そうにその様子を見下ろすと低く熱の籠った重低音で囁く。
「同意のもとだから強姦ではない。…それにどうせ気持ち良くなる。観念しろ」
嘘付け!僕がいつ承諾したんだ!と悪態をつくが虚しくも無視された。
足をバタつかせ蹴り上げようとするが腰を捕まれた四つん這いの形では蹴れそうでできない。葛藤を繰り返すうちに突如綺礼は僕の背中に覆い被さり、うなじを舌でなぞる。ぞくり、と肌が粟立つ。
「…………っ…〜〜!」
洩れそうになる声を肺まで戻し、必死に押し込んだ。
声を上げないことに不服だったのか下着だけになった下半身にあろうことか手を伸ばす。下着越しだが半身の形を確かめるよう丁寧になぞられ、不本意にも腰を戦慄かせた。いやだ、いやだと思うが体は反して触られる指を追ってしまう。悩ましげに眉を寄せ、ぎゅっと瞼をきつく閉じる。
下着が、ひどくもどかしい。
「……ぁ…ッ、く…」
雑誌に爪をたてて我慢していたが、ついに苦しげな吐息となって洩れた。
ふっと笑い声が耳元で聞こえる。
「…あんなやさしい顔をして猫と戯れるとは意外すぎて、さすがの私でも妬けたぞ」
「…ぁ…っあ……、は…っ」
耳に入った発言に反論しようとするも言葉になったのは艶を帯びた声のみ。できることならば耳を塞いでしまいたいが、言峰はそれを許さないだろう。
いつまで経っても激しくならない緩やかな手の動きに無意識のうちに腰を揺らしてしまう。
無意識に動く腰と唇から溢れる喘ぎの羞恥を、冷えた床に額を押し付けてどうにかして堪える。手がもどかしいなど口に出せるわけもなく、じんわりと目尻に生理的な涙が浮かび上がった。

耳に注がれる荒い吐息から言峰も言峰で興奮しているのか、と分かり、手を激しくしてほしいとうったえるためしぶしぶ唇を割り開く。
が、ひどく焦げ臭い異臭が鼻を突き抜けた。え、と思う。言峰もそれにすぐさま気づき、卑猥な蜜に濡れた手を離して体を離した。
乱れた服装で涙目のまま言峰を見上げる。
「おい、まさかお前」
「……焼いていた魚が焦げたんだろう」
「………」
おそらく以前僕が買ってきた鯵だろう。実を言うとすごくすごく楽しみにしていた。それを飄々とした態度でさらっと返されれば、怒りを通り越してもう呆れた。言峰は大して乱れていない己の服を正すと何事もなかったかのようにすたすたとキッチンへと戻っていく。
火事になったら大変だし今すぐに動けるのは言峰だから行動の判断としては合っているが、あれだけ触っておいて無視するとはどういう了見だ。まぁでも考えてみたらあの男が僕に労る言葉なんてないのだろう、まだ突っ込まれる前だし。
最悪という二文字を感じながらのろのろと体を起こして、ボタンを留め始めた。その合間ですら熱が止まない。唇も、首筋も、うなじも、半身も。触られたところ全てが余韻を持っている。
「………っ…」
くすぶる熱に眉を寄せワイシャツをぎゅうと握った。トイレにでも行ってこようと思い付いた矢先、言峰がタイミングよく顔を覗かせた。しかも焼け焦げた鯵の残骸を片手に。
「いい忘れていた。食事が終わったらベッドで待っていろ」
「…〜〜〜〜!!」
非道すぎる。
言葉にならない叫びを上げ、ソファーにあるクッションを引っ掴み綺礼に向かって思いきり投げつけた。彼はひょいと避けると、見せつけるように唇に薄笑いを浮かべてキッチンへと戻っていく。
半端な熱は返って気持ち悪さを覚えることぐらい男同士ならわかる。それを悟ってのことだろう。もうここまでくると言い返せるはずがない。情けなくズボンを引き上げながら、唇をごしごしと拭き、女々しく残った熱をなんとか逃がす。

完全に綺礼のペースだなと思いながら、目をさ迷わせていると傍らで律儀にお座りをしている白猫と目があった。
きりつぐは此方に向けて瞬きを一度してからにゃあんと鳴く。紅潮した頬を隠すように自らきりつぐに擦り寄った。柔らかな毛に顔を埋めいい匂いだな、とぼんやりした意識下で思う。だらしなく頭だけソファーに乗せると、またしても頬に鼻を近づけてすりすりしてきた。
「まったく、君がいないと退屈しないよ。この家は」
そうして苦笑すると、白猫はもう一度にゃあんと返事をした。








20120225

余談ですがシーバのCMを想像していただければ



しいら


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