2222 | ナノ


短く的確な言葉に反論する気もなくなり顔をそらして煙草を取り出す。気を紛らすためだった。しかしそれは叶わない。ライターを探しているうちに肩を掴まれ、右手に持った真っ白な棒を取り上げられた。言峰は反論の隙を与えずケースの中に煙草を押し戻しながらゆっくりとそしてはっきりと告げる。

「煙草はやめろ。子猫に悪い…」
「…」
衛宮は気づいていないが無意識のうちに眉を崩し唇をきつく結んでいた。煙草が吸えないという制約の悲しさもあると思うが、それ以上に衛宮切嗣自身を見ていないことに動揺しているのだろう。
それを見つめると満足そうに笑んで煙草のケースを内ポケットに戻してやる。衛宮はなにも言わずただ呆然として顔だけをみていた。

意地悪の度が過ぎたかと思い始めた頃、衛宮の手が伸びて相手の頬に触れる直前で、止まった。はっとなり見上げるといつもより少しだけ水を帯びた瞳は震えていて、言峰は目をすっと細める。
「…………」
頬に触れようとしたがその手は拳になり、無造作な音となってソファーに落とされた。
「…外で煙草吸って来る」
抑揚のない声で呟き逃げるように立ち上がりかけた時、言峰はその手を握った。痛いほど強く。指越しに行くなとうったえるように。
「ぃ…っ」
勢いよく手を引かれれば反動で足がもつれ、相手の体に勢いよくぶつかった。その衝撃で小さく呻く。太股の間を割り込ませ容易に腰を持ち上げると、足を跨がせて彼を座らせる。そうしてするりと背中に手を回し抱き寄せ、首筋に額を押し付けた。
「ただの冗談だ。…そんな泣きそうな顔をして行くな」
一瞬眉をしかめるがやがて落ち着いたように唇に弧を描いたことを、言峰は知らない。しかしすぐに顔をしかめて手を乗せた腕に爪をたてる。がりっと。
「…冗談にしては目が本気だったけどな」
爪たてる腕を強引に引き剥がし顔を見たいがため両手で衛宮の頬を包んだ。向かい合うと敵意丸出しのむくれた顔が目にはいる。
「子猫に妬くなど子供のすることだぞ。そう拗ねるな」
「拗ねてない…」
衛宮は言峰の黒い瞳を交互に見つめ今ここでしてほしいことを無言でうったえた。再度上腕に手を乗せぎゅっと力をこめてしがみつく。そうすればふ、と吐息を交えて男は笑った。言峰は腕を払うことなく溶けた瞳で唇を見るだけで、衛宮のしてほしいことをしない。
「外道」
たった一言。
そして睨んだ。
苦しい。喉元まで込み上げてくる欲を抑えるのがいまの精一杯で、もうこれ以上我慢はできない。無理、だ。
「いつもみたく与えられるだけではなく、たまには自分から言ってみろ」
どこまでも残酷な甘い言葉に舌を打つ。もう一度胸ぐらを掴みあげ、唇を押し付けると噛みつくようなキスをした。ん、ん、と鼻に抜ける吐息を上げながら舌をおずおずと出して唇をちゅ、と舐めてみる。顔を傾けて、頬に触れて、ただ夢中に唇を貪る。らしくないと分かっていても止まらなかった。嫉妬を埋めるにはまだ足りない。
互いに唇を割り開き息継ぎをする途中で言峰の言った台詞は下手くそ、だった。ムードもへったくれもないその言葉に反抗しようにも反抗できず、腕にしがみつく。それぐらいしか今の僕にはできない。

「っ…ふ……」
唇を離しても体は寄せあったままだった。何せ言峰は腰に手を回して離さなかったから。その手がなんだかこそばゆい。
乱れた呼吸を整えるために額同士合わせた。吐息ですっかり蒸気した朱の頬を、彼にじっと見られさらに温度が上がった気がした。彼のまつ毛の一本一本が見える距離で切羽詰まったようにこう言う。
「名前を、呼んで」




切嗣、と呼ばれれば傍らの白猫がにゃあんと声をあげて返事をする。それを横目に綺礼の唇を激しく奪った。


もうだめと誘うように舌を出すあなたをこの手にかける衝動は、とても心地良い




20120223

にゃんにゃんみゃー!

25日までにもう1つのぬこverを!



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