全ての元凶は | ナノ








眠れない。
闇の中ぼんやりと殺風景な部屋の輪郭を捉えるようになってから、どのぐらい時間が経っただろうか。ただわかることは全く眠くないということ。
睡眠過多とは思えない。いま隣で眠る彼の王、ギルガメッシュの御遊びに今日は付き合って終わった。それもそのはず。師は動く気配がない故、己も動く気はなかった。綺礼自身、無駄な動きはしたくない。
自室に一日籠ってはいたが、規則的に過ごしたはず。
嗚呼、しかし、ずっとギルガメッシュとチェスをしていたから頭が冴えてしまったのか。

「‥‥‥」
眠くない上に、寒い。
暖炉はとうに消してしまった。
布団を手繰り寄せ膝を折り足を丸めると足先を指で幾度も擦り、暖める。しかし冷えきった足先は暖かくなることはなく、擦った分逆に手が冷えた。
しばらくすれば暖かくなると半分諦めに似た感情を持ち合わせながら、口元まで布団を手繰り、壁の方へと寝返りをうつ。

「おい綺礼」

凛と響く声音に思い出したように首を巡らせ振り返る。そういえば何の趣味なのか、いつしかギルガメッシュは同じ寝台で眠るようになった。女の寝台に忍びこむならまだしも、正真正銘男の寝台で共に眠るなど王の行動は未だに掴めなかった。
「‥‥なんだ」
我ながら無情なまでに冷めた声だと思う。
「我の掛け物を奪取するな。程度を弁えろ」
顔を伺わなくてもわかる。あからさまに王はご機嫌斜めらしい。と、いうよりもこれはわたしの布団であって断じて貴様のではないと口を開き掛けたところで飲み込む。喧嘩を売るほどいまはそんな余裕はない。見ればギルガメッシュにかかっている布団はほぼ無くなっていて、己が寝返りをうったと同時に布団を奪ったらしい。首筋からわずかに感じるあたたかい吐息に、ギルガメッシュが此方を向いていることに顔をしかめる。
無言で手繰り寄せた布団の半分を相手の肩に押し付け、そのまま寝てしまおうと試みる。が、それを許すほどこの王は寛容ではなかった。

「つまらぬ。今ので眠気が覚めた。綺礼、我の相手をせよ」
「‥‥‥‥」
深夜にも関わらず傍若無人な物言いで吐き捨てると、背の服を鷲掴みにして引き寄せられる。喉に服が食い込み呼吸がしにくくなるが、動揺すれば相手の思うツボ。無表情のまま首を巡らせ振り返る。

「‥‥余興ならば明日付き合ってやる。だから今は、」
「寝かせろと?」
「…ああ」
眠くはないが明日に響く。普段はギルガメッシュに抗議せず、どちらかといえばおとなしく従う綺礼もさすがに口調を強くした。
しばらくの沈黙。
隣から舌打ちがしたかと思えば背の服を掴まれた手を離す。何の反応も寄越さないわたしの態度に不服そうなさぞ機嫌の悪そうな表情をしていることが容易に想像できる。
相手を諦めただろうと油断したころ、嫌がらせでしかないと思うがギルガメッシュは冷えた足先を、わざわざ綺礼の素足にぴったりとくっ付けてきた。

嗚呼、全く面倒くさい

そう思わずにはいられない嫌がらせに反論する気すら失せ、再び目を閉じて舞い落ちてこない睡魔と戦う。それにも関わらず、相手の冷えた足先は己の脹ら脛から膝窩、太股へと服をめくり上げてやさしくなぞってくる。

「‥‥っ」
びく、びくとなぞられるたびに寒気で震える。生理現象はどうにしても抑えることはできなかった。いつもながら、しつこい。相手に表情が見えていないのをいいことに眉間に皺を刻む。

「っ、‥‥やめろ」
「おやすみ綺礼」

まるでその言葉を待っていたかのように、くくと可笑しく笑うと足が離れた。ギルガメッシュが何をしたかったのかはわからない。というより、どうせただの気紛れだろう。目を細めると布団をできるだけ引き寄せないよう、器用に布団の下で寝返りをうつ。

わずかに暖かみを帯びてきた足でギルガメッシュの冷えた足に触れて、ゆっくりと瞼を閉じた。


全ての元凶は貴方



20120203

サーヴァントって眠気を感じないって終わって気づいた



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