どちらが弱いかなんて分からない | ナノ





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無言無表情の言峰に差し出された酒に思わずしかめ面。珍しく僕から一切の要望をしていないのに、彼は何を思ったのか強引に酒を渡す。それもまたこちらに顔を見せずに腕だけ伸ばして渡してきた。
「やる」
「‥‥僕はそんなに酒に強くないんだ」
意味がわからない。とりあえず本意をありのまま伝えると、肉付きのいい腕が縮む。

ソファーに座り夜を楽しむ時刻。実は煙草を吸いたくて堪らないが右隣にいる彼を考慮して僕は黙って本を読んでいた。一方で言峰はそろそろワイン一本が終わる直前だった。
互いの間を手二個分ほど空けていたが、丁寧に断ると言峰がずいと体を寄せてくる。その間が、埋まった。膝と膝がくっつく。顔が近い。ついでに酒くさい。

あ。

それでいて、目元が僅かに赤い。

「酒は嫌いか?」
「嫌い‥‥ではないよ。ちょっと苦手なだけだ」
「‥‥そうか、」
参ったな。
こんな彼を今まで見たことがなく自分自身も信じられないぐらい心のなかで動揺する。相変わらず膝同士をくっつけながら、隣で前屈みになり顎を上げて酒に溺れ落ちる彼をじっと見つめる。頬は朱色に染まっているが無表情は変わらなかった。
今日に限ってどうしたのだろうか。仕事がうまくいかなかったのか。もしくは良いコトでもあったのか。あくまで勘だが、おそらく、後者。

「今日は何かあったのかい?」
「‥‥‥いや」
「もう一時になる。明日に支障でる前にそろそろやめたらどうかな」
「貴様に指図される謂れはない。それよりも、もう黙れ」
「っ」
短くきれいに切られた爪が食い込むほど手首を握られ、あっという間に捻られると組み敷かれる。己の腹に跨がり、見下ろされる。濃い茜色の液体が入ったグラスを片手に。
動揺が重なって、油断していたのだと思う。
本能的に今すぐにでも形勢逆転はできるが、酔った言峰綺礼があまりに珍しくて、興味本意で、抵抗しなかった。
大人しく見下ろされていればいつもの抵抗がないことに気づいたのか、つまらなさそうに酒をあおる。

「もう僕は眠いんだけどな」
嘘だけど。
「黙れと言っている」
「言峰、」
「五月蝿い」

最後の一滴まで赤い唇で口に含んだ彼は、屈んで覆い被さると、映画のワンシーンのように顔を傾け唇を重ねてきた。僕も唇を割り開きそれに答える。唇を吸って、舌で受け止めた。
しかし流し込まれるワインと飲み下す比率が合わず、頬を伝って一筋涙のように溢れる。
抵抗など、できなかった。
なんとなくキスされるんだろうなとは分かってはいたけれど、予想を上回るほどワインが濃かった。胃が喉が唇が熱くて、熱すぎて痛くて噎せる。

「っん‥!!げ、ほっ!ッ!!」
「なかなかの美味だろう?」
どこが。
言うより先に再び塞がれて、呼吸を奪われる。しつこいぐらい唇を舐められて、舌を吸われて、口内をかき回され蹂躙された。
執拗な口付けに息を乱さずにはいられない。唇の隙間から熱い吐息を漏らして、苦しげに喘いだ。
「ん、」
あつい。
本当に、今日は一体どうしたというのか。彼は何を根源にこんなにも熱いのか。問うより先に思考回路がぼんやりと熱を帯びる。きっと先程僕が見た言峰の姿が、今の僕そのままだろう。まるで、照れたように頬が熱い。頬に向かって皮下が蠢く。

嗚呼、嫌だ。
だから酒はきらいだ。

唇を離し上から降り注がれる相手の熱視線から逃げるため、腕で顔を庇う。こんな姿を見られたくないと、珍しく羞恥を感じた。
しかしそれは叶わず容易に腕を剥がされた。

「頬が紅いぞ、衛宮切嗣」
喉でくすくすと笑われ、むっとした。腕を拘束され身動きがとれずにまっすぐに見上げる。
子供に戻ったような彼は、いま頬が赤い。
まるで体が大きな赤ん坊。
そういう僕もか、と鈍い思考を巡らせ此方もくすりと笑った。
「そういう君も、ね」




どちらが弱いかなんて分からない

「―――頭、痛い」
「あんなに大量に飲んでいればそりゃあそうだろうね。だから言っただろう。もうやめろって」
「‥‥‥五月蝿い」







20120131
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