祐悠 | ナノ





「祐希は、よく萎えないよね」
 ベッドにごろ寝してアニメージャを捲る何でもない昼下がり。突如始まった悠太の言葉に顔を上げた。
「…、何のこと?」
勉強机に座る片割れの背中に投げかける。
「…何のことかわかってるくせに」
「わかんないよ」
「……セックスのことだってば」
うちのお兄さまは試験勉強中に何でそんなやらしいことを考えたのか甚だ疑問ではあるが、それよりも、
「萎えるわけないよ。そんなの悠太がいちばん知ってるじゃん」
だって現に祐希くんのビンビンのあれを突っ込んでるじゃないですか。
「いや、そうじゃなくて、……同じ顔で同じ身体だから自分とシてるみたいに思わないの?」

双子だからこそ気になった問い。双子でなければ生まれない疑問。

そんなことを問いかけられたということはつまり悠太は少なからず考えたことがあるということになる。
抱いてる最中に時折、言葉無くただ祐希の顔を見ている時がある。もしかしなくても、あれは、自分とシてる、と考えているのではなかろうか。

「じゃあ逆に聞くけど、悠太は自分とシてるみたいって思ってるの?」
「…たまに」
「俺は俺で、悠太は悠太じゃん。全然違う」
顔も、声も、性格も、仕草も、勉強の仕方も、人との関わり方も、喧嘩の仕方も、おそらくセックスの仕方も。
「だから俺自身を抱いてるなんて思ったことない」
見た目は同じように見えてもあきらかな別の人物で人格だ、と。

未だこちらを向かない背中から目を離して、また雑誌に目を落とす。
悠太のことだからどうせまた気難しいことでも考えているのだろう。こういう時はただ、祐希の思っていることを率直に伝えればそれでいい。


悠太は、振り返って片割れを見た。悠太の怖さを祐希は何も分かっていない。
「たまに、怖くなるよ」
「…なんで?」
祐希は再度顔を上げる。そして見つめ合う。
「同じ顔でされていると思うと、いけないことをしているんだ、って認識させられるから」
「バレなきゃいいでしょ」
「そうじゃない………、そうじゃなくて…」
イラつく。好きなことをして何が悪いの。悠太は何が言いたいの。
雑誌を放って左手の細い手首を掴む。
「悠太はさぁ、俺と別れたいって言いたいわけ?」
「っ、違う」
握る手に力が入る。
「じゃあ何、俺と悠太がするセックスの何がいけないの。気持ちよくて、好きな子と好きなことして、何がいけないわけ」
「……」

同じ顔でも違う人間だ。でも同じ顔だから家族であり、兄弟であると認識させられる。
悠太は心配だった。同じ顔を抱いていて祐希は萎えないのか、という祐希の心配。同時に、兄弟でこんなことをしてしまって、バレたときの自分たちの心配。

悠太は揺れていた。

後戻りのできないこの状況に。

一カ月付き合って祐希のことは好きでも、戻れないことに気づいた。だから一カ月という切れ目でいっそ別れた方がいいのではないか、と思い、この話を切り出した。

祐希は、悠太が好きだ。負けないくらい悠太も同じ気持ちなのは確か。

それでも、違う、と告げてくる誰かが耳に囁いてくる。

「祐希、俺は祐希のことが好きだよ」
「うん、知ってる」
「お兄ちゃんが心配性だっていうのも知ってる?」
「よく知ってる」
「祐希と自分たちのことを心配しすぎただけだよ。………ごめん」
最後だけ声が小さくなる。
別れようなんて思ってないのに、思ってしまう自分がいたことをさらけ出してしまった。祐希は、きっと傷ついた。すごくすごく。

「…ごめん、祐希」
「もう謝らなくていいから二度とそういうこと言わないでよ」
「言わない」
「約束だからね」
「うん、…約束」
悠太は、ベッドから身を乗り出す祐希の首に腕を絡めて自分と同じ形をした唇を奪った。


双子でなければ生まれない疑問



20130730

双子だと萎えないのかな、と。





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