議題、人間なのか | ナノ



「赤司はどこで髪切ってんの?」
「?駅前のところの…」
「え、あんな高い所行ってんのかよ?」
「ああ」
「じゃあいつも何のシャンプー使ってる?」
「……忘れた」
「ボディーソープは?」
「覚えていない」
「シーツの色は?」
「…青峰」
「何だよ」
「質問の意図が分からない」

二人以外誰もいない部室は見たとおりの放課後。部活のスケジュールを組んでいる赤司の正面に座り、待つのに飽きた青峰は頬杖をついて質問を投げかける。が、赤司の怒りの含んだ一声で止んだ。
赤司の整った顔をじっと見る。くそ真面目に書き物をしている主将は一秒たりとも此方を向いてくれない。
だから一つの悪ふざけが思い浮かぶ。


「今日のパンツ何色?」

ぴしゃーんと赤司の頭上から落雷した背景が目に見える。
あの赤司征十郎がフリーズしていた。
あ、なかなかいい気分。
「…………悪い。俺の聞き間違いかもしれない。今何て言った?」
後半は声が震えていた。
「今日のパンツ何色?って言った」
「……転ばされたいのか」
ペンを止めて尖った猫目が向けられる。ドスの利いた低い声で一喝され、さすがの青峰にも後悔の念に苛まれ、口をひきつらせて笑いかけた。
「や、転ばされたくない」
ただ、
「お前がパンツ履いてるのが想像できねェんだよ」
すました顔で過ごしてる坊ちゃまが風呂上がりにいい匂いさせてパンツに脚を通している姿にモザイクがかかってどうにも想像できない、と。
「つか、ちんこ付いてるよな?」
その問いかけをする頃には元の赤司征十郎様に戻っていた。もう興味はないらしく目を紙へ戻してペンを滑らす。
「逆に聞こう。下着を履いていない上、付いてないと思っているのか?」
「え、うん。想像できねェ。…性欲もなさそーだし」
青峰は赤司を頭のいい主将と捉えていたが、それ以上につかみ所のない奴だった。だからまず同じ人間で同じ男かどうか確かめたかった。それに青峰のような年頃の男なら女に興味を持つが、この男はそんな風にはどうにも見えない。

ニキビが一つもない赤司の顔面を見つめ続けると、仕方ないから答えてやるといった面持ちで口を開く。

「…あいにく精通は来ている。何を考えているか知らないが俺は男で下着も履いている」
「ふうん…」
別に実際にブツも下着も目で見て確かめるわけにもいかないし、そっちの趣向があるような変態に思われたくないから適当に流す。
しかし、それにしても模範解答みたいな返しでつまらない。
はぁ、とため息をついた。

「粗方俺を宇宙人とでも思ったのだろう?」
察しのよすぎる赤司は、ようやくノートを閉じた。
「まあそんなとこ。お前何でもできるし、オレと同じ人間って思えなかったし」
「そんなことはない。……………好きな相手に告白もできない」
「え!!?お前好きな奴いんの!?」
目をひんむく青峰は誰だよと問いかけても赤司は黙って眉を寄せるだけ。ノートをバッグに入れると肩にかけて立ち上がる。
「お前に教えたら横流ししそうだ。教えない」
「えー!?いいじゃねェかケチ。そこまで言ったら教えろよ」
「100年後に覚えていたら教えてやろう」
「ハアァ!??教える気全くねーじゃねェか!」

ギャーギャー騒ぐ隣で穏やかに笑う姿を青峰は勿体ないことに見逃していた。
暗い夜道を歩く。
「そういやさ、今日のパンツは何色なんだよ?」
「まだ引きずるのかお前は。変態め」
「いーじゃん。ちょっと気になっただけだろ?」
少し考えてから赤司は右にいる彼に目を向け、真剣で真面目な声で答える。

「…青」



議題、人間なのかどうかについて


20120601



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