君の嫌がる顔が好き | ナノ








 赤司征十郎は外でセクハラされる事をとても嫌がる。


「…各自ノルマをこなせなければ明日の日曜に持ち越しになって倍になるだけだ、皆そのつもりで。以上」
 赤司が用意した本日のメニューを淡々と読み上げると全員の顔が五歳年を取ったように老けたが、当のキャプテンに口出しする者はいない。皆のげっそりした顔を無視してミーティングが終わらせると、アップをするためにそれぞれが荷物を持って部室から出て行く。
 その喧騒の中で、どさくさに紛れてそっと赤司の尻を触る手があった。

 ……またか。

 背後で触るのが誰かはもう分かっている。連日嫌がらせのように触ってくる手にうんざりしながら子を叱るように呟いた。
「いつもいつもいい加減にしろ大輝、不快だ。皆にバレたらどうする」
 太腿から尻、腰にかけて繰り返し撫でる痴漢の手を掴み、怪我には至らない程度に踵で足の爪先を踏む。背後で「い゛ッ」という情けない声が聞こえても力を緩めることはしなかった。
 頭だけ振り返って不機嫌極まりない顔でへらへらした相手を睨みあげる。
「別にバレてもいいだろ。ちょっとぐらい触っても減らねぇし」
「その安易な考え方が駄目と言っているんだ。早く行け馬鹿」
 部室には人が多いため青峰のセクハラがバレにくい反面、バレた時に大事になりかねない。何せ恋人同士であることを知っているのはお互いだけで、誰にも話していない。もちろん部員に話すつもりもバレるつもりも毛頭ない。
 そんな赤司の危惧を知らず、青峰は反省の色なくいやらしく笑い、固くて楽しくなさそうな自分の尻をしつこく触ってきた。二人っきりの時ならばムードやらなんやらとあったものだが、今のこの状況ではムードも何も気持ち良くもない。さすがに痺れを切らして怒りを含んだ声で呼びかねた。
「……おい」
「青峰くん何してるんですか、早く行きますよ」
 本気で怒ろうとした矢先、黒子に扉の付近から此方に呼びかけられ大げさなほど肩が大きく跳ね上がった。

 …バレ、た……か?

 背筋に冷たいものが走り、恐る恐る黒子の顔を見るが視線は後ろの青峰に向いていた。ホッとしたのも束の間、手が離れる寸前に尻たぶをムニュっと強く掴まれ、あろうことか冗談混じりに尻を軽く叩かれた。
「ん?あーはいはい」
 尻を叩く程度ならば友人同士でも冗談混じりにやるが、赤司の不快メーターは最高潮に達し、冗談だと捉えることはもはや不可能だった。
「大輝…」
 黒子を追いかける鼻歌交じりの背中に向けて恋人の名を呼ぶ。上機嫌そうな相手が振り返ると、やさしくにっこりと微笑み、背景に黒い龍を仕えていそうなオーラを放ちながら天罰を下した。
「外周50周、存分に楽しんで来い」






 午前は練習メニューだったが午後は練習試合だった。無論勝ったはいいが一日丸々バスケをしていた疲労のせいか、肉体的精神的にボコボコにされた部員たちは部室にいつまでも残るわけでもなく、自宅のベッドを目指して帰って行く。
 次々と帰宅していく部員を見送りながら、今日のノルマ状況や翌日のメニューのために外が暗くなっても残っている赤髪が一人居た。

「あ?まだ残ってたのか。主将さんはご苦労なこった」
 タオルで汗を拭いながら部室に戻ると、赤司が顔を上げた。
 どうやら朝のセクハラを根に持っていたらしく、いつもなら言葉多めに話してくるが今日はお疲れと一言交わして会話は終わる。青峰自身も特に話す事もなかったため、ロッカーにしまってある制服を取り出して無言で着替えだす。
 くそ真面目に書き物をしている相手をちらと横目で見るとまだユニフォーム姿だった。
「……着替えねぇのかよ?」
「ん?…ああ、そういえばそうだな。忘れていた」
 自分のユニフォームを見ると目を瞬かせ、まだ途中であろう書き物を置いて青峰の隣に立って上を脱ごうとする。此方の目線に気づいているのか着替えの最中はモロ背中を向けられたけれど、それでも煽るには十分だった。

 自分の浅黒い肌関係なく、男にしては色素の薄い肌に吸い込まれて、そっと手を伸ばす。健康そうな背筋を、上から下へ撫でてみた。予想通りビクッて跳ねたけど。
「…っ………お前、この期に及んでまだ懲りないのか」
 振り返った顔は朝見た時と同じように、普段あまり見せない不機嫌そうな赤司の顔。自然と唇が横に広がって笑う。
「誰もいねーよ、ちょっと触らせろ」
「ちょっ…、おい」
 まだ完全にユニフォームが脱ぎ終わっていないせいか抵抗もできないらしく、それに付け込んで後ろから抱きしめる。それなりに筋肉は付いているがバスケをしているとは思えない身体の細さを、改めて触って実感する。

 赤司のベッドでした時みたいに、小さい胸の突起を指先で押し潰して引っ張る。青峰のベッドの上でしたみたいに、白いうなじを赤い舌でゆっくりと舐める。
 真っ赤な耳をカジって舐めたら、もう落ちるのは目の前。
 ぁ、とか、ん、とか、小さい喘ぎ声が漏れるが、それでもまだ部室という場なのか抱きしめる腕に爪をたててきた。もちろん痛い。

 首や耳、胸、腰、腹と愛撫していると、赤司にとっては最悪なことに外から誰かの話し声が近づいてきた。閉じた扉を見ようとハッと顔を上げようとしたが、こっちに集中しろと叱るように顔を此方へ向けて、柔い唇を奪う。
 扉の前を通る時だけ弄る手を休めていたが、人が通り過ぎると再開する。

「ん、ぐ……やめろ、誰か…来たら……!」
 息継ぎの合間で話す息は顔にあたり、イヤでも興奮を煽った。弱すぎる抵抗と、嫌そうな顔と、エロ漫画に出てきそうな言葉に、若き青峰の身体は簡単に反応する。
 小振りな尻に足を密着させて、勃ったそれを分かるように押しつけた。

「来ても平気だろ。それよりもお前の嫌そうな顔見てたら勃ったわ、ヤりてぇ…」
 どこが平気だ!と怒声が来るかと思ったが、それよりも後半の言葉が衝撃だったらしい。
 胸の内を吐露するとバレる恐怖なのか、みるみる顔面蒼白になり、いつにも増して脇腹やら脚やらを殴ったり蹴ったりしてきた。しかし力の差ゆえか往生際の悪い恋人の足を簡単に払うことができ、痛くないよう最低限の配慮をして床へ押し倒す。

 最初はバカみたいに挑んできたが、時間と共に抵抗は止んでいく。おそらく青峰の馬鹿力に諦めがついたのだろう。
 ギリギリ聞こえる声を拾う。

「…ックスするなら、音便に手早く済ませろそれが条件だ…。…………あと後で絶対殴らせろ」

 気高く絶対的な王を想像させる帝光中学のキャプテンは、早く抱けと促すよう青峰の首に腕を回して抱きついた。(正確には首を締め上げてきた)
 その抱きつく直前、ほんの一瞬だけ、赤司が泣きそうに目元を歪める。
 それを青峰は見逃すはずがなかった。
 強がる言葉とは裏腹に、怖さなのか羞恥なのか小刻みに震える身体を抱き返せば…
「…お前なんか大嫌いだ」
 そう言われて青峰は笑った。

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 試合後のせいか、行為の最中は汗が止まらなった。床に組み敷いて、わざと顔のみえる正常位で突きまくるたびに、青峰の汗が赤司の顔や胸に落ちる。
 赤司は全裸にさせ、一方の青峰は上半身だけ脱いで犯していた。
 顔を横に背けて賢明に息をしようと喘ぐ赤司の目尻に、ぽたり、と汗が落下して頬を滑る。それが、泣いているのと錯覚しかけた。

 赤司はセックスが初めだった時も、どんなに痛いことをされても泣いた事はない。おそらく尋常ならぬ理性がそうさせているのだろう。
 だから、泣いているようなこの光景がたまらなく青峰の興奮を煽った。やたら太い剛直がさらに硬度を増し、いっそう赤司を苦しませる。その証拠に睨まれた。

「…っ。…あ、わり」
「馬鹿。お、きすぎ…ぁ、っぁ…う、…ぐ…」
 決して女のように柔らかくない太腿を掴み、反省の色を見せず、意図的に両足を左右に大きく開かせる。こうされるのが赤司はとてつもなく嫌いだと以前言っていた。その理由を聞いたらただ、不快、とだけ言われたが。

 ウソツキ……。

 左右に開いた瞬間、引き抜いていく時の中の締めつけは、今までの比ではない。それに開かせた途端、腹に付きそうなほど勃ちあがったその先端からは、はしたない程の透明な液を零し始めた。
 このことを言えば殴られるか蹴られるか、はたまた練習量が倍になるか、のどれかだろうから青峰は言わない。ただ鑑賞する。

 足を左右に割り開かせた途端、腹いせとばかりに肩に爪をたてて、肌をガリガリと引っ掻かかれる。
 猫の爪とぎ台にされた心地に、お返しとばかりに今度は膝が顔につくぐらい折り曲げて、今まで以上にグラインドを強めて腰を打ち付けた。
 強すぎるほどの律動に、可哀想なほど赤司の小さな身体が前後に揺れ、床に背中が擦れる。
 痛みに、顔が歪んでいた。

「う、…う、ぁ…や、や…。本当に…いやだ…っ…大輝…やめろ…」
 青峰が絶頂間近で揺さぶられる痛みに耐えきれなくなったのか、小さくうーうー言いながら肩を叩いてくる。
「ウソ付け。……こんなに、濡れてんのに?」
 言わないと決めていたが、つい本音が漏れる。
 激しすぎるセックスに耐えるためか目をぎゅっと閉じているのを青峰は許さない。自分よりも小ぶりな赤司のものを広い掌で全体を包んで上下にスライドさせた。今まで触れられてこなかったせいか、下腹がひくひくと震えて、わかりやすいほど身体は指を喜ぶ。

 楽しそうな声で見ろよ、と促すと、恐る恐るというように閉じていた目を開けた赤司は、自分のものが青峰の手に触れられている光景に絶句して、見なければよかったと顔をそらして後悔する。
 赤司の自身は、透明な液を腹に滴らせてないていた。
「っぁ……お前…ふざけ、るな。…しね…」

 罵倒はむしろ、安い強がりで、ただの興奮材料。


 しかしまだこんなものは序の口だった。
 時折遠くの方から人の声がするのは知っていたがその声が少しでも近くなると、青峰はわざと弱い所を集中して突く。それも一定のリズムがあるのではなく、ただ滅茶苦茶に。それは青峰の身体を支えていた膝や足の裏が痛くなるほど。
 バレるのが嫌だ、と顔に出ているのを知っていてもやめてやらない。

 さらに追い打ちをかけるよう、肉棒の先端や裏筋をしつこく擦れば耐えられず、普段なら絶対に聞けないような甘い声で喘いだ。

 やめろ、よせ、許して、お願い

 今しか聞けないような単語をひたすら繰り返して、懇願するように額を肩に押しつける。これだけでもプライドはズタズタだろう。
 神聖な場所である部室で性行為をするだけでもよかったが、どうせなら汚してしまいたくなった。

「っ…なあ、赤司。気持ちイイ…?」
「ぅ、ぁ………気持ち、くない…」
「へえ…。そりゃあ、残念」

 言葉とは裏腹に絶頂間近の身体は断続的に震えだす。
 何度問いかけても気持ちよくないと言い張りながらも、達する直前は喘ぎをかき消すために肩に噛みついてきた。腹から胸にかけて断続的に白濁を放った。

 青峰も青峰で、赤司の普段みない姿やいつバレてもおかしくない現状が重なり、相手が達したと同時に、飲み込まれそうなほどの強い締め付けを受けて中に射精した。






 全て脱がされたのが功を奏したのか、大事なユニフォームが自分の白濁で汚さずに済んだのは正直良かった。
 いや、そんなことよりも前段階として、こんな場で性行為に至ったことが赤司には言語道断だったが。

 背中は床に擦れて痛いし、お尻は尋常じゃないほど痛いし、足を広げたせいで股関節が痛い。さらにはセックス中に死にたくなるほど青峰によがってしまった。制服を整えながら色々なことがない交ぜになって、イライラして、舌打ちをする。
 そんな中で青峰のとどめの一言。

「オレ、赤司の嫌がる顔が好きだから」



「…………………………は?」

 青峰は何事もなかったかのようにベンチに座り、当たり前のように言い放って見上げてきた。それを暫く固まって見つめていたが、ようやく言葉が理解できた頃には蔑むような表情を相手に送りつける。

 今まで苛めてきた所業はすべて好んでしているのは何となく分かっていた。しかし、こうも馬鹿みたいにはっきり言われると、中々に腹立たしい。しかも余裕そうに笑いかけてくるものだから、赤司の中で何かがブチンと切れた。

 立っていた赤司は、さんざん好きなように抱いてきた浅黒い青峰の肩を、足で蹴った。トン、と押すだけでその巨体は易々とベンチに倒れる。片足を肩に押しつけたまま上から見下ろせば、女王様の出来上がり。
 一方の青峰はこの展開を想定していたのかと思わせるほど、冷静だった。抵抗もせずベンチに横になる。

「主将の立場がある限り、僕の嫌な顔が見たいがために皆の前でセクハラをして、それを見られて、関係がバレて、信頼を失うくらいなら僕は潔く別れるよ。大輝」

 別れる気かよ、と青峰が不満そうに呟く。

 その後は長い長い沈黙だった。何分経ったのかわからないが、重たい空気を破ったのは、赤司だった。


「………でも、キャプテンの立場の次に優先させたいのはお前だ…」

 世間的な立場は譲れないが、それでも青峰大輝の傍に居たい、と。
 眉を寄せた悔しそうな顔で、こんなことを言うのは不本意だというように桃色の唇を引き締めて、見下ろしてくる。
 泣きそうに、見えた。
 セックス中の汗がフラッシュバックする。

 肩に置かれた足を掴み払いのけると、立ち上がって今にも泣きそうな相手を胸の中に抱きしめた。
 やめろと言われても離すわけがない。
 腕の中にすっぽりと収まるサイズを痛いぐらい強く抱きしめて、赤髪をぐしゃぐしゃと掻き撫でる。そして低い声で、滅多に言わない相手の名前を耳元で呼ぶ。
 そして囁いた。

「泣くんじゃねーよ」



 青峰に抱きしめられていた赤司は、瞳を揺らして、静かに動揺する。泣きそうな顔をしたつもりはなかった。しかしそう映ったからには、紛れもなく泣きそうな顔をしたのだろう。理由はわからない。
 しかしその広い胸に頭を預ければ、もやついた思いは消えてなくなり、年齢相応幼く笑ってしまった。もちろん声はあげずに。
 どんな顔をして赤司が抱きしめられていたかなど、青峰は知らない。


「………泣いてない。いい加減離せ、誰か来たらどうする」
「ぐふっ」
 先ほどの泣きそうに揺れる声が嘘のように凛とした口調で否定され、ボディーブローをかまされた。まだそんな力が残っているとは思わず、悶えながら腕を解いてうずくまる。それを赤司は鼻でせせら笑った。
「お前馬鹿か、このぐらいで力尽きるわけないだろう。僕を誰だと思ってる」
「かっ、わいくねぇ」

 おそらく外は暗い。時刻も八時になりそうだった。青峰を無視してベンチに置きっぱなしの書き物を鞄にしまい、帰る支度を始めた。そういう青峰はその横顔を眺め、俯きながらぽつりと一言。

「…あいつらに関係がバレても信頼なんて失うわけねーだろ」
 あまりにらしくない言動に、動いていた手を止め、気持ち悪いなお前、と失礼極まりない言葉を投げる。
 それに対し、青峰は自然と口元に弧を描いていた。

 俺の好きな奴はこいつしかいないと、確かにそう思う。好きな奴ほど苛めたくなる小学生のガキの気持ちが今ならよくわかった。

 赤司と並んで同じように帰る支度をしながら、また一つ悪戯をして好きな子を苛める。
「優先させるものが、キャプテン>オレって言われると、お前がキャプテン努めてる時にセクハラしたら嫌な顔がますます見れます、って言ってるようなもんじゃねーか」

 ここまで懲りないとさすがに突っ込む気が失せたのか、溜息一つ付いてバッグを持って帰ろうとする。慌てて背中に追いつこうと走ると、部室の電気を消された。
 足下の照明が頼りの中、しばらく廊下を歩いていると、赤司が手を絡めて繋いできた。
 え、と青峰が言うより先に早口でまくし立てる。誰がどう聞いても動揺しているのがバレバレなぐらい、赤司らしくない声。

「皆の前でセクハラ禁止。次やったら、別れる。………その代わり、周りに絶対見えない所ならいい、けど」


 顔が見えない暗闇を利用した、精一杯のデレなのだろう。とてつもなく可愛くてたまらなくて、声をあげて笑った。その笑い声に横から不穏なオーラを放っているのは言うまでもない。
 返事の代わりに手を握り返して、できるだけゆっくりと歩いて帰り道を辿った。






20130428
支部ろぐ