家に招き入れれば、きょろきょろと大きな黒目を動かして室内を探索している。その姿は年相応に見えて、思わず口許が緩んだ。
「お腹すいたでしょ。ご飯食べようか」
そう声を掛ければ、少年――鬼灯は、こくりと頷いて閻魔の方に掛けてきた。そうしてぐるりと辺りを見回して、台所に入っていく。乱雑に置いていた食料を掴むと、慣れた手つきで下ごしらえを始めた。
「え、ちょっと」
「はい?」
「いいよ、ワシがやるから座ってて」
「…はい」
鬼灯は大人しく閻魔と場所を代わる。ありがとう、と閻魔が言えば、ぱちくりと目を瞬かせた。
「では、せんたくをすればいいですか」
「何もしなくていいよ。座っていなよ」
途端に鬼灯は眉を潜める。真一文字に結ばれた口が、息と共に言葉を吐き出す。
「…私、せんたくもりょうりもそうじもできます。ちゃんと役にたてます」
閻魔は違和感を覚える。律儀な子だと思いはしたが、どうやらそれだけではないらしい。相変わらずの無表情ではあるが、その瞳は不安げに揺れていた。どうしたことだろうと思考を巡らせていると、ふと、彼の指が目に入った。酷く荒れていて、爪もぼろぼろである。そういえばその指も腕も普通の子どもより肉付きが悪い。暗い瞳の印象も合わせて、あまりいい待遇を受けてこなかったのかな、と閻魔は思案した。
なにを想像しているのかわからないが、せめてその不安だけでもぬぐってやろうと手を伸ばせば、鬼灯は両手で素早く顔の回りをガードした。その反応に己の予想を確信に変わる。気にせず頭を撫でてやれば、その体はびくりと強張り、やがて不可解だというように目で訴えてくる。
「君はお客さんなんだから、何もしなくていいよ。気持ちだけで充分嬉しいから」
ありがとう、と言い、座らせれば、ぎこちない動作でそれに従う。再度礼を言い、料理にとりかかれば、彼は何か言いたげな表情で閻魔を眺めていた。しかし実際は何も言わなかったため、閻魔も何かを訊ねたりはしなかった。
採っておいた魚介類や山菜を出してやると、しかし鬼灯は手を出さない。どうしたことだろうと閻魔が顔を窺えば、鬼灯と視線がかち合った。お腹が空いていないのだろうか、と思った瞬間相手の腹の虫が鳴く。やはり空腹なのだ、それではなぜ?そこである考えに行き着いた閻魔は、鬼灯の前に小分けにして食べ物を取り分けた。
「ほら、これは鬼灯君の分だから全部食べていいよ」
そう言って自らも食事を口に運べば、鬼灯は目の前に置かれた食料と閻魔とを交互に見比べて、遠慮がちに食べ物へと手を伸ばした。小さな口は、初めは少しずつ、やがて腹を満たすようにがつがつと食べ進める。その様子にほっとして、閻魔も己の腹を充たすべく、魚に手を伸ばした。



続く


20120510
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