努力してなくたって出会いがある時はあるし、努力してても出会いに恵まれないことだってある。
だから僕は余計に着飾ったり周りのコ達みたいにやれ化粧品がどうだとか、やれあの小物がいいだとか、そんな話にはてんで興味が沸かなかった。
そりゃあ可愛いものは可愛いし気に入った物は手に入れたいと思うけれど、それは遍く自分のためであって、誰かに良く見られたいなんて見栄からくる物欲では決してない。
いくら他人の目を気にしていたって、他人の評価なんてどうせ自分には分からない、そんなものに一喜一憂するなど愚直の極みなのだから。
だから僕は僕のしたいことをして、着たいものを着て、自分の物差しだけで自分を測るんだ。
それは少なくとも僕にとって正当な評価であるし、全ての基準になる価値観の一部でもある。
他人からの目なんて後から付いてくるものだ。
その証拠に、恋に狂ってる周りのコ達なんかより僕は圧倒的に男の好意の的になる。
恋人には困らないし、その上で特定の相手を作らない僕の性癖(恋人達に言わせれば、大変困った病気)を、最早みんな諦めているのか知らないけれど、苦笑いで済ませてくれることも多い(勿論その視線の中にやっかみが含まれていることも知っているが)。
だから、僕は好きなように生きてきたし、周りの情報に流されるなんてこともなかった。
なのに。
なのにこの、いかにも流行りに乗ったような淡いグラデーションのついた爪は。
(どうしたっていうんだよ)
これ以上ないほど眉をしかめれば、力の入った眉間がぴくぴくと震える。
ふう、と息を吐き出して掌を握ったり開いたりを繰り返す。それに合わせて不自然な色に染まった爪が消えたり現れたりした。それを眺めながら、己の記憶を反芻する。
地獄を、鬼灯を訪ねた。その日が休みなのは調査済みである。仕事の邪魔をしなければ彼が不機嫌になることはないだろうと予想をつけ、会いに行った。
自分らしからぬ白いワンピース。膝下までの少々長めのデザインのそれは、単に彼がミニよりロングが好きという噂を聞いたから。帰ったらまたすぐ漢方の調合をしなければならないというのに、たった数十分の為に時間を掛けて爪を塗った。浮いた話ばかりの自分にそれは無意味かもしれないと思いながら、清楚な印象を与えてくれるという、爪を誇張しすぎないマニキュア。
馬鹿馬鹿しいと思いながらもそんなことをしなければ家から出ることが出来ないのだから、自分はよほどいかれてしまったのだ。
そうして目一杯頑張って(何を頑張ったって、頑張っていることを気付かせない程度に頑張ることを、だ)、訪ねた先の彼は、珍しく着飾った僕を見てたった一言、
どうせ貢がせた服でしょう
お遊びもほどほどに、とだけ言って、ろくに目もくれず。
ぐうの音もでなかったのは、事実その服は他の男がくれたものだったからに他ならない。
だからその次の休みには、もっとラフな格好で会いに行った。あまり高価に見えない、それでも少し上品なトップスに、落ち着いた色のスカートを合わせて。
先の言葉が悔しくて、今度は上から下まで自分で買ったものを。
それなのに、相手の言葉は同じ。
何度もファッションを変えて、妲己やリリスにアドバイスをもらって、試行錯誤しても、相手の言葉は変わらない。
他の男に通じる色仕掛けが通じない。
悔しい、悲しい、どうして、どうして、どうして。
幾度目かで桃タロー君に泣きついた。
桃タロー君は困ったように撫でてくれたけれど、初めてこんなにがむしゃらになった感情をコントロールできるはずもなく、加えて五里霧中のような恋、泣いて泣いて次の日には目が腫れて、店を休んだ。
そこでふと、自分が周りの女のコ達と同じって気付いたんだ。
必死になって、相手の言動に、周りの声に振り回されて馬鹿みたい。
それなのに懲りずに爪をそめて、曲線で彩られた靴なんて買って、会いに行く。
だって、仕方のないことだ、元々僕だって
(彼女達と同じ女だもの)
今日も慣れないヒールを履いて、彼の部屋のドアを叩こう。罵倒されたらリリスの元で、アルコールでも煽りながら愚痴ってやる。
振り向いてもらえるまでいつまでだって繰り返すのだ。
負けるものか、口の端を上げて、ふふ、と小さく声を出す。
窓から差し込む陽光に、爪に塗ったトップコートがきらりと光る。
(誰にも渡さない)
(一番最初にあいつの隣を歩くのは)






BGM→風ふけば恋/チャ_ット_モン_チー

20120421
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