「あなた、最近桃太郎さんにくっつきすぎですよ」
極楽満月、従業員の兔を膝に乗せ撫でながら、片眉をつり上げて鬼灯が指摘する。その台詞に振り返り、白澤はにやりと笑った。
「何、ヤキモチ?」
「なわけないでしょう頭沸いてるんですか。自分の仕事をこなしなさいと言ってるんです」
「やるべきことはやってるもーん」
ねえ桃タロー君、と話題を部下に振れば、ええ、まあ、と歯切れの悪い言葉が返ってくる。
「ほら、桃太郎さんだって鬱陶しいと思ってますよ」
「桃タロー君はそんなこと一言も言ってないだろ!」
憤慨して叫ぶ白澤に鬼灯は目もくれない。その態度にますます機嫌を悪くした白澤が、鬼灯に掴みかかろうとした時、カラカラと店の出入口が開く音が聞こえた。目を向ければ、桃太郎が籠を背負って敷居を跨いでいた。
「あれ、桃タロー君どこか行くの?」
桃太郎は戸を閉めようとした体勢のままで二人を見る。うまく逃げおおせようと思っていたのに見つかったか、と目を細めて、しかしそんな心情を微塵にも出さない声音で桃太郎は答える。
「ストックがなくなりそうな薬草がいくつかあるので、早めに補充しに行こうと」
「じゃあ僕も行くよ」
不機嫌な態度を一変させ、桃太郎の方に駆け出す。その途端に、忍ばせるように白澤の進行方向へと伸ばされた足に引っ掛かり、派手に顔から床に激突した。
「それがくっつきすぎだと言うのです」
しれっと言う鬼灯を睨み付け、いちいちうるさいんだよと叫ぶ。
「薬草だって摘みながら効果や副作用を教えるのも大切だし、似ている草との見分け方なんかもその場で指摘できるから、僕が付いて行くのは桃タロー君にとっても実のある事なんだよ」
ねえ桃タロー君と同意を求めれば、桃太郎は確かにその通りですけど、と地べたに這いつくばる上司を見下ろした。
「言い訳だろうが、白豚が」
鬼灯が舌打ちすれば、白澤は不機嫌な視線を向ける。
近頃、白澤の桃太郎への執着は少々行きすぎている。桃太郎が出掛けるときには白澤が必ず付いて回っているようで、仕事や書類の関係で桃太郎が閻魔殿へ赴く時ですら、その横には白澤の姿があった。最早使いの意味がない。今、極楽満月の中ですら、桃太郎が部屋を移動する度に、白澤はまるで雛鳥が親を追うように、あちこちと後を追うのだ。忙しないし、見ていると苛苛と頭痛がする。これでは仕事の効率は押して知るべし、溜まる一方ではなかろうか。
白澤が何をしていようが興味はないが、彼が彼の仕事をおざなりにすれば、鬼灯の、ひいては地獄の業務にまで支障が出る。それはどうしても避けたい。
「自分の仕事をなさい」
「だからやることはやってるだろ」
起き上がり、白衣に付いた汚れを払うと、白澤は桃太郎の横に並ぶ。そうして鬼灯を振り返りながら、ふんと鼻を鳴らした。
「そういえばお前に頼まれてる薬、時間かかるよ。サボってるからじゃない、元々時間が掛かるんだ」
今日中にはどうしたって出来ないんだから、さっさと帰れ。白澤は暗に言う。
はあ、と、鬼灯は今日一番の溜め息を吐いた。
「もしも怠けて作るのが遅れた時は、覚悟しなさい」
そう言って二人を押し退け、店を出たその背中を、いちいち嫌味なんだよ、という白澤の罵倒が追いかけてきた。






20120420
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