視察からの帰り、珍しく地の底を歩いている背中を見つけ、思わず話し掛けた。振り返った瞳は驚き半分不信半分といった様子で見開かれていたが、こちらを認識すると、途端に表情は緩む。見知った顔と分かったからである。
忌々しい白い神獣のような切れ長というわけでもない、かといって桃を全面に押し出している彼のアイドルのように丸々としているわけでもない、小さい目。その中に、更に小さく、自分が映っていて、こちらを見ている。
普段であれば遥か空の上にいる彼が、なぜこの場にいるのかを問えば、不喜処を覗いてきたのだ、と返事があった。
なるほど、あそこには彼の旧知の友がいる。この地に出向く用事につけて、会いに行ったのだろう。
彼らの様子はどうでした、と問うと、ぱっと花が咲いたように顔が綻びる。住む場所が違えば頻繁に会うことは叶わない。それぞれが職を持っていれば尚更である。そんな中での、またとないチャンス、久しぶりの再会が、良いものであったことは、その表情からして、おそらく間違いないだろう。
嬉しそうな顔で何やら言っている。鬼灯の問いに答えているのだ。しかし、当の鬼灯には、その音は意味を成していない。
ぱくぱくと動く様が、そう、大切に育てているあの動植物によく似ているなと、考えていた。ほかにも、何か同時に思考しているのだが、その大部分には霞が掛かっていて、中々像を結ばない。目の前の男の事を考えているのは確かなのだけれど。
桃太郎さん
話し続ける彼を、彼の名を呼んで黙らせる。彼は、はい、なんでしょうと、鬼灯の制止に大人しく従った。
このあとお暇なら、お茶の一杯でも飲んでいかれませんか、丁度お茶菓子を買ってきたのです、そう言えば、桃太郎は暫く逡巡していた。上司の事を考えているのだろう。ああ、あいつの顔。思い出しても腸が煮えくり返りそうだ。
手に提げていた饅頭を思わず投げ捨てそうになった時、桃太郎はこちらに目を合わせ、せっかくなので、お相伴に預かりますと笑った。
その言葉で饅頭は九死に一生を得、桃太郎は鬼灯宅に誘われることとなった。






20111217
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