歩くペースをいつもの一割増しにしたくなる水曜日、すこし晴れてきた昼過ぎ。たのしみなものがある。鍵が開いたままの家のドアを開けて、すこんとパンプスを脱いで、揃える。そのまま日の当たるリビングに行けばいつもの光景があった。投げ出された長い手足と、ゆるすぎるその枕。ただいまと小さく言ったわたしにすうすうと寝息を立てていたそのひとは細く目を開けて、声にならない声でおかえりと言って、からだの向きを変えた。



彼がわたしのヤドンに魅せられたのは三週間前の水曜日。俺、水曜日は暇やねんと乗り込んで来ていきなりこの子を枕にしてすよすよと寝たのがきっかけ。それから毎週水曜日はうちに来て昼寝をするだけして、ほな、なんて言ってあっさり帰っていく。何故枕にしようと思ったのかはわからない、本人に訊いても今更もうわからないらしい。なんだそれ。しかし枕にされた側もされた側でまんざらでもないようで、いまではしっかり寄り添って眠るようになった。

なかでもわたしが気に入っているのはその色合い。おっとりしたピンクに透けるような金の髪がこれでもかというくらい映えてきれい。しかも窓を開けて日なたで寝るおかげてたまに泳ぐ髪がきらきらひかるのだ。それがどうしようもなく好きで、いまではしっかり水曜日のたのしみになった。タイミングを合わせたように上下する胸も負けず劣らず愛おしいのだけど。



きょうだって日なたで少し膝を曲げて眠る彼の頭の下にはいつもの子。たまに重たそうな瞼を上げてははう、とひとつ息を吐いてそのまままた眠る。きらきら、きらきら。髪がきょうもきれいで、つい指ですきたくなってかがむ。そしたらまたその目がうっすらと開いて、次にやんわり笑って、ヤドンの背中をぽんぽんと叩いた。

「なに?」

もそもそとなにか言っているようなのでさらにかがんで耳を近付ける。音も発音も曖昧で、ことばを拾うのに苦労した。

「いっしょに、ねよ」

ふ、と笑ってもう一度背中を軽く叩いた彼はまた微睡んで落ちていった。ああ、もう、寝ぼけてんの?

じゃあちょっとだけ、おじゃまします。そっとしゃがんで頭を温かいピンクに乗せる。わたしが頭をのせたからか、小さく息を吐いたかわいい枕。息を深くし始めたとき、わずかに動いたしっぽがわたしのからだを彼の方に押した。

「こっちも、ちょっとだけ」

ヤドンの寝相に乗じて少しだけからだをくっつけてみる。うん、気付いてない気付いてない。それでは温かな枕と一緒に、おやすみ。



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