虫酸が走る。視界にある全てが鬱陶しくて仕方がない。必要以上の光を放つシャンデリアも甘さだけをやたらと漂わせる大きなケーキも、なんて馬鹿馬鹿しいんだろう。人も気持ち悪い程に集まって、二人を祝う気持ちすら曖昧になっている。真ん中には見慣れた男と女。笑顔を浮かべて声をかけてくる人たちに答えていた。たとえそれがフェイクであるとわかっていても、わたしとしてはなかなか腑に落ちないものが今でもあって、「その時」、いわゆる誓いの言葉などという儀式が来るのを今か今かと待っている。予定上目的の時間はもうすぐで、電気を落として集まった人たちがしんと静まり返るはずだ。そう、今のように。司会がそれとなくほのめかせばその場がどっと盛り上がり待ってましたと酔った男が叫んだ。待ってました、わたしだって。
「嗚呼雲雀!」
わたしは大声を上げてそれと同時に右手に握っていた銃の引き金を引いた。ギラギラと光るボディはわたしを妙に興奮させて、高揚する気持ちはただ上昇の一途を辿るばかり。その場に居た女も男もそれぞれ精一杯の声で叫び、すくんだ足を動かそうと必死だった。花嫁である女の方も甲高い声で叫び、花婿である雲雀の腕にしがみついている。気色悪い、さっさとその腕を離して。
「その真白なドレスを血で染められたらどんなに素敵かしら」
真直ぐ銃口を女に向けてにたりと笑う。さっと真っ青になった女はなんとも滑稽でさらに笑えた。しかしその華奢な腕は雲雀にしがみついたままで、わたしは多分黒い、の形容が最もよく似合う視線を雲雀に送る。アイコンタクト、ニヒルな笑み、作戦は終焉を迎えようとしていた。
「さぞ素敵だろうね」
ぱんと女の腕を振り払ったのは他でもない花婿であった雲雀自身。女の目には絶望だけが映って生気も消え失せた。たまらない。このたまらない優越感に勝るものなどほとんどない。これで今回の長い任務は終わったも同然。本当の雲雀の女はわたしで、雲雀はわたしの男。始めから終わりまで全く変わらなかった事実。残念でした。
「三文芝居なんてお終いにしましょう」
雲雀は上辺だけの張り付いた笑みを浮かべてわたしの腰元に手を伸ばして見せつけるように強引なキスをした。ぞくぞくと駆け上がる高揚感に身をゆだね、お互いの口内の空気を奪い合う。ドレスをまとったまま崩れ落ちた女は終始それを見つめ続け、最後にひとつ涙を落とした。それが恐怖から来るものだったのか悔しさから来るものだったのかはわからないし興味もない。唇を離してはっと息を吸ってすぐに、わたしも雲雀も銃を構え直した。変わらず銃口は女を向いている。気怠い空気を断ち切るその凶弾をその銃が吐き出すのはもうすぐだ。馬鹿馬鹿しい空気ともさよならだ。わたしと雲雀は再びアイコンタクトをして躊躇わずにその引き金を引き抜いた。
「さよならターゲット」
さあ茶番劇の始まりだ。