アドレス変えたから今から一括送信すんぞー、とのんびりした声が響いた部室。空気も微妙に締まらない雰囲気で、どうもだらけていたらこうだ。ミーティングが終わって男子も女子も適当に集まって適当に座って適当に話していた。さっきの声の主はゆっくり自分の携帯を閉じて少し笑っている。と同時にわたしも含めて周りにいた人の携帯が少し時間差で鳴り始めた。表示されたのは見たことのないアドレス。あ、来た。今送ったのはきっと周りにいたひとにだけで、さっき言ったからだとは思うけれどメールに本文はなかった。しかしながら話を聞いていたひとがいれば聞いていなかったひともいるわけで、画面を見ながら首をかしげるひともいる。これだれだよ?そんな声を遮ったのは期待を裏切らない田島くんだった。それに乗じて続けたのは水谷くん。

「うっわつまんねー!」
「電話番号とか!」

彼らの声にもう一度そのアルファベットと数字の羅列を見直すと、そこには見覚えのある数字の並び。最近よくかける所為で覚えたそれは、まぎれもなく携帯の電話番号だった。…あれ。うんまあ、シンプルなアドレスでらしいと言えばらしい。

「番号教える手間省けていいだろ」

ふんと腕を組んだ彼を見て、ああ阿部か、と話を聞いていなかったひとも登録するためにまたその画面に向かう。だけどわたしは違った。…っど、どうした、の?ふわふわと現われてわたしに尋ねたのは三橋くんで、その雰囲気というか態度というか、三橋くんのいつものふわふわした感じはどうも今のわたしの心境に似ていた。答えることも出来なかったわたしに他のみんなの視線も集まる。阿部隆也本人だけが笑っていた。ああもう。たまりかねて花井くんが大丈夫か?と言葉を投げた瞬間、わたしの手からは未登録のアドレスからの本文のないメールを開いたままの携帯がすべり落ちた。ねえ、数字の羅列の前にさりげなくあるアルファベット一文字、これ、わたしのイニシャルなのかなあ。


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