嫁に来ませんか。
そんなことが頭をよぎったのは塾の帰り、ぼうっと空を見ていたときだった。描くシナリオはどう転んでもおもしろくて、女のわたしが男に嫁に来いという滑稽さから何からお腹の底から笑う理由になった。思い立ったらすぐ行動。練習は終わっただろうか。終わってなかったら留守電に一言嫁に来ませんかと入れてやろう。よし発信。

『なんだよ』
「嫁に来ませんか」

思ってたよりすぐに繋がった。いきなり爆弾投下。ぶっと吹いた音を携帯はきちんと拾ってくれて、それから慌ててその部屋を出るガタンバタンという大きな音が聞こえた。はあはあと息は荒い。

『なっ、なんだよいきなり』
「嫁に来ませんか」
『しかもオレが嫁?』

夫婦になるその響きにばかり気を取られていた隆也くんはやっとそのわかりやすい滑稽さに気付いてくれたらしい。な、な、なっ…とか、いや、だとか意味を持ってそうにない音をまた携帯に拾わせて、それはわたしの新たな笑いを生む。投下した爆弾は何かを連鎖的に爆発させてくれているみたいだ。素敵。

「びっくりした?」
『…は、なに』
「じょ、冗談に決まってるでしょ?」

わたし隆也の旦那になるの?それに隆也が嫁?エプロンとかするの?料理も?やっばいおもしろい!その前に隆也がウェディングドレス着るのか、…っぶ!有り得ない!想像出来ない、どうがんばっても無理!無理!

『お前…!』
「あははははっ」
『ちっくしょう!』

大きな声が聞こえてわたしの笑いはエンドレスになる。なに、本気にしたの?わたしの声は隆也の逆鱗に触れたようで、ばっかじゃねえの!とさっき以上のボリュームで響いた。流石にこれは耳が痛い。でもその大音量の余韻がなくなってしばらくしても次の声はしなかった。なんでオレ真っ赤になってんだとか、本気にしたとか意味わかんねえだとか、そんな葛藤を繰り返しているんだろうか。それとも怒った?やっぱり謝っとくべきかな。

「ごめ」
『お前が嫁に来い!』

どかんと耳に突き刺さる。わたしが投下した小さな小さな爆弾は、連鎖反応で大きな大きな爆弾まで爆発させてしまったみたいだ。携帯の向こう側でひゅうと口笛が聞こえた。なに、まだ部活終わってなかったの?


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