「誰か」の前にわたしの世界のひとが並ぶ。わたしが今までに、一瞬でも関わったひと達。目が合った、一緒に笑った、たとえばそんなひと達。奥行きの知れない大きな、部屋なのかどうかすらわからない空間にただ真横に一列に並ぶ。ただ果ては見えない。ああわたしの世界にはこんなにも多くのひとが存在していた。どうやらわたしの横に真っ直ぐに並ぶひとの中で誰か一人が命を差し出せば世界、みんなは救われるらしい。「誰か」はその一人をただじっと待っていた。目が合った気がした。けれど怖くて目を瞑る。誰か一人とは言わない。そう、わたしがこの命を差し出せば世界は救われると言う。逃げたい衝動に駆られてもわたしたちに後ろへ進む道は残されていなかった。ただ「自分の命を」と言う口と、名乗り出るための足と、自分の歩幅だけの道が、前にだけ用意されていた。頭がおかしくなりそうだ。わたしが、君が、誰かが。世界を、みんなを。わたしの大切なひとだって。急に寂しくなって横を見る。何故か脳裏によぎったように君はそこで一歩踏み出していた。嫌だ、そんな。君はわたしの耳に永遠に残るような声で「僕が」とだけそう言った。待って、違う、君だけは嫌、だ。

「   」

叫びたくても声が出ない。そんなものは用意されていない。君がそうやって踏み出した一歩が他にいたひと達みんなを臆病者に変えた。踏み出さないみんながわたしを、一人以外のひとを臆病者に変えた。弱い。君以外のみんなが泣いていた。遠くなった君だけは少し、笑っていた気がした。どうしても、連れて行くんですか。



全部、全部、ゆめだった。わたしの横に眠る君は規則正しい寝息を立てている。君は世界のヒーローになるんだね。大きくて適わない。今はこんなにも、キス出来るくらい近くにいるのに。投げ出された手を強く握ればそこには人間の温かさがあった。目を覚ました君はきっとその場でわたしだけに向けて微笑むんだろうね。


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