あの強烈な台風はつい先程熱帯低気圧に変わったらしい。テレビに写し出される映像は自分の住む国を客観的に伝えてみせる。何時間かの雲の動きを早送りで見せられると、あまりに簡単で笑えた。台風が通り過ぎるときの荒れた天候なんて知らないかのようにパッパと切り替わる映像はやっぱり無機質だった。真夜中のテレビの画面はどこか静かで落ち着いている。深夜にも関わらずわたしは一人、リビングでテレビを見ていた。土曜日辺りにこの地域を直撃した台風は少し北上して海に出て、月曜日の早朝に姿を変えた。なんとタイミングの悪い。足を組み直してテレビの前に自然な格好で座ったら傍に置いていたケータイがふるえた。メールだ。ディスプレイを見れば表示された名前は「泉孝介」。こんな時間なのに起きてるんだ、…あ、わたしもか。

「台風が熱帯低気圧になったって」

読んだ瞬間にくすりと笑いが漏れる。同じもの、見てるんじゃないかな。その前にまずどうしてわたしが起きてるってわかったんだろう。

「知ってるよ」
「あ、見てた?」
「しっかり見てました」
「お前この土日大丈夫だった?」
「どういう意味?」
「いや台風通過しただろ」
「そういうことね」
「…で?」
「大丈夫だったよ雷雨も風も」

短いメールを一分おきくらいの間隔で送受信する。彼は彼であの悪天候の中わたしが怖がっていたんじゃないかと心配してくれていたらしい。優しいなあ、ありがとう。

「部活なかったから暇だった」
「どうしてたの?」
「別に何もしてねーよ」
「そっか」
「お前は?」
「ずっとぼーっとしてた」
「はは、らしいな」
「何それ!」

こんな他愛もない話をしているうちに時計の針がきりの良い時間を指した。深夜三時だった。不思議と眠たくはなかったけれど、彼だってきっと今日も朝早くから練習があるのに違いない。もうそろそろ寝ることを提案してみる。そうだな、と同意してくれた。おやすみ、それからそれに合った絵文字をつけて送信すれば、一分後に同じようなメールが返って来た。今日初めての絵文字にぎこちない感じは否めなかったけれど、少し清々しくて気持ちいい。かわいさを感じずにもいられず、またくすりと笑う。おやすみの後に加えられたメールは、「今日は晴れるって」。彼は暇をせずに済むな、きっと久々に羽を伸ばすんだろうと考えると、うずうずと興味がわいた。「今日の練習は見に行くね」。そんなメールを送信してとりあえずメールはおしまい。月曜日に台風が来ていたなら学校は休みだったのに、なんて考えはいつの間にやらどこかに消えてなくなっていた。


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