学校が終わって帰って、疲れていたつもりはなかったがわたしは睡魔に夢の世界へいざなわれていたらしい。時計を見る。最後に見た覚えのある時間から2時間近く経っていた。しまった。サイレントマナーのままの携帯をポケットから取り出せば、それはチカチカと光り、その光はわたしの胸をざわざわと通り抜ける。ぱちん。開いて画面を確認すると、新着メール3件、着信2件。すべて誰からのものかなんて安易に想像できた。アドレス帳からそのデータを引き出さずに、自分の指でなめらかに数字を並べてそのまま通話ボタンを押す。ぷつりと彼に繋がるまでに5秒もかからなかった。
「も、もしもし」
『なんでメール返さねーんだよバカ』
「や…ごめん、寝てた」
携帯の向こうでため息が聞こえる。メールの内容は確認していない。だけどきっとやさしい内容なんだと思う。
『あーもう』
「なに?」
『心配して損した』
「ごめんって」
いつもわたしは帰宅したらそれを報告するメールを送っていた。だけど今日はそれをせずに寝てしまった。彼はわたしに何かあったんじゃないかって、心配してくれたみたいだ。盛大なため息をつかれる。
「反省してます」
『たりめーだ』
「これからはないようにします」
『お願いします』
小さな声で笑われて、笑った。がたがたと音がする。自転車にでも乗っているんだろうか。心配されて胸は少しこそばゆくて、どこからか会いたい衝動が膨らんでくる。今から自転車に乗って会いにいこうか。会いたい。それがいきなり押し掛けても理由になってくれる。にわかにやる気になってきたところで電話の向こうが静かになった。あ、ちょっと黙ってたから変に思われた、かな。
『今おまえの家の前なんだけど』
やられた。わたしはきっとこんなところに惚れてしまったんだろう。