なんかもうどうでもいい。どうにでもなれ。えっと、ままよ?本当にもう何も知らない。知りたくない。ああ、もう。

「ばかみたい」

何も知らなかった頃に戻りたい。関数も漢字も九九もひらがなも日本語も、スキップも立つことも、出来なかったころに戻りたい。どれだけ泣いても泣き足らない。かれこれ1時間半泣いている。声が大きくたって構わない。公園のベンチ。膝を抱えて、膝に顔を埋めて。

「っばか」
「     」

何か聞こえた気がする。でもきっと気のせいだ。何も聞こえないように音量を最大にしてイヤホンをはめている。何も聞こえなくていい。もう、何もいらない。

「こら」

イヤホンを無理やり抜かれた。ちょ、なに、すんの。顔を上げたら有り得ないくらい近い距離に阿部の顔があった。びっくりさせないでよと言ってもう一回イヤホンをはめ直そうとしたらその手を止められる。思ってたよりも強い力。

「なに」
「こっちの台詞」

なにがあったと声をかけて私の横に座る阿部はただ一昨日の席替えで隣になっただけの関係。あと、昨日は飴あげたっけ。

「何もないよ」
「そうかよ」

イヤホンをはめ直そうとしたら今度はさっきよりもずっと優しく止められた。お前な、イヤホンの音漏れすごいぞ。そう言って呆れたように手を離した。知ってるよ、わざと。またイヤホンを耳に近付けたらその大きさで頭痛がした。片方の耳は慣れたのにな。手をベンチに下ろしたらすぐさまその上に隣の男の手が重なった。ああ、阿部に惚れとけば、よかったかな。


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