ズガンズガン。けたたましい音が屋敷中に響く。やっと静寂が訪れたと思えば、また銃声。今日は朝からずっとその調子だ。プライドが高いあいつがその腕を以てこの屋敷に仕える人間を巻き込んで、銃を乱射している。医療班が追いつかない。いつも屋敷内で銃を打っ放すときはひとつ部屋をぐちゃぐちゃにするだけで済むのに、…ったく、あいつはどうしちゃったんだよ。またどこかで上がった悲鳴に、部屋に集まらせた幹部の一人がわなわなと震えた。相手が相手だけに、下手に人を投げ込むわけにはいかない。


「いつまでこうしているつもりですか10代目!」
「ん、もう少し」
「だけどツナ、この間にもこの屋敷のヤツらは被害くらってんだぜ?」
「だけど、」

有能な幹部二人が耐え兼ねて声を上げる。ここで飛び出していかないのはボスの絶対命令の所為だ。部屋に張り付いて、壊れていく屋敷の音を聞くだけ。この二人が、そして他の幹部が強いことは自分がこの目を以て、そして身を以て知っている。しかし暴れるあいつの腕だって確かだ。あいつは今見境なしにただ銃を放っている。いくら幹部達が強いと言っても、どうなるかわからない。危険がないとは言い切れない。

「一番愛した愛人が自分の所為で殺されたみたいだね、沢田」

また別の幹部が言う。感情的ではないものの、少々この状況が気に食わないようで、変化を望む声だった。あいつが一番愛した愛人が殺された、か。なるほど、あの人が殺されたのか。ならばこの状況を打開出来るのは彼女を知っているオレか、霊にでもなった彼女しかいない。

「ちょっとオレ行ってくるよ、あいつを止められるのはオレだけだ」

みんなはここに居て。大きな扉を後ろ手に閉めてまた大きくなった銃声と高く飛んだ悲鳴を聞いた。ちょっと急がないと死人が出そうだな。基本的にこの銃声の中心はあいつの部屋だ。とりあえずはそこに向かわなければ。

先程まで幹部達と居た部屋からあいつの部屋まではそれなりの距離があるけど、しれている。数十秒もすれば銃声は鼓膜を破りそうな程に近くから放たれるようになったし、こぼれている血液の量も増えた。鮮血だった。

「あの人が殺されたんだって?リボーン」

ひゅうと風を切って銃弾が頬を掠める。なんだ、冷静さを欠いて腕も落ちたのか。瓦礫を蹴って深くため息を吐いた。

「お前が一人の女性にあそこまで入れ込んだのは初めてだったもんな、でもお前が暴れたって彼女が帰ってくるわけじゃないだろ?」

もう一発気の抜けた銃弾が飛んで来て、またどこかの窓が割れた。既にそこらの壁は蜂の巣のようになってしまっていた。彼女のことが好きだったのは知っている。彼女がどれほどお前を支えて、お前は支えられてきたかも知っている。けれどそんな彼女が居なくなって、お前がそんな風になっちゃいけないんだ。お前が一番割り切らなきゃいけないだろ?オレが初めて人を殺したときだって「お前はボンゴレのボスなんだ」とか言って、割り切らせたくせに。

「お前にこうやって言われるなんて俺も落ちたモンだな」

扉を蹴破って部屋に進入して、久々に見た姿はいつもより小さくて、弱々しくて、ただ壁にもたれ掛かって座っていた。足元には銃から落ちた鉛。相当な数だった。くしゃりと帽子で目を隠すように押し付けて、ぽつりとそう言った。

「………畜生…」

ズガン。またあいつの手から銃から鉛が空を切って、走る。パリンと高い音がして数十メートル先の写真立てを砕いていた。あれは確か、あの人との唯一の。

「リボーンお前っ…何やって!」
「こうやってあいつを過去の人間にでもしちまわねーと狂っちまいそうだ」

出て行ってくれ、すぐに戻る。そう残してお前はオレの足元に打ち込んだ。そこから上がる煙は酷く白くて、目にしみた。オレはわかったとしか言えなくて後ろで閉まった扉を見ることさえも出来なかった。結局あいつだってヒトの子なんだ。どうせ今頃冷たくなったあの人を思い出して泣いてるんだろ。それからそんな自分を見つけてまた悔しいんだろ。わかるか、お前をそんな人間にしたのはあの人だ。よかったな。


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