昔から今までずっと変わらない心地よいポジション。バカにしあってふざけあって、たまには激しくぶつかりあって、テストの点数は毎回競って、負けたら何かおごって、勝ったらおごってもらって、そんな幼馴染みとも親友とも違うポジションにお互い位置付けられていて、お互い位置付けている。そう思ってた。ぐらりと世界が表情を変えたのは学年最後のテストの前だった。阿部はひとりの女の子をつれてわたしのところへやって来て、こいつも今回の勝負参加するから気合い入れとけって言った、そのときだったと思う。その女の子はクラスの子だったしわたしだってそこそこ仲がよかった。だけどその子を阿部が連れて来た理由がわからなくて、わたしは思わずえっ、と声をもらしていた。けれど阿部はわたしをいいだろと言って押さえ付ける。い、いいよ。そう言うのが精一杯だったわたしは多分笑っていなかった。だけど阿部はそんなわたしには構わずに女の子に笑いかけていた。わたしは阿部にとって何なんだろう。無意識のうちに自分のものだと思っていた心地よいポジションは、いつの間にかこんなにも不安定になっていた。結局例の勝負に負けたのはわたしで、阿部と、阿部の横で小さく笑う女の子にお菓子をおごった。どうして。春休み、時間が有り余っているわたしは一度だけ一晩かけて考えてみた。阿部とわたし、わたしと阿部、阿部とあの子、あの子とわたし。ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる考えて、出てしまった答えはわたしを悩ませるには十分で重くて痛い。わたしは阿部が好きで、阿部はあの子が好き。わたしは、きっとあの子が嫌い。ああ、ああ、醜いなあ。嫉妬だなんて。筋違いもほどほどにしろよ自分。だ、けど、あの子のポジションにはわたしがいたかった、なんて。

「あー、はよ」
「わ、おはよう阿部」

ねえわたし、笑えてる?廊下ですれ違ったあとのその背中を追ってみる。何も出来なくて泣けてきた。立ち止まった阿部の視線の先にはあの子がいて、ゆっくりゆっくり息を吸って挨拶していた。その視線は気持ち悪いくらいにやわらかくて甘い色。わたしはその視線の意味を知っていた。わたしが阿部を見るこの視線にそっくりだった。


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