「はいはーい」
『もしもーしなまえさんの携帯電話ですかー』
「なまえさんの携帯電話でーす」

見計らったかのように駅を出てすぐにかかってきた電話。相手なんか見なくてもわかっているけど一応見慣れた、子の多い(と言っても2個だけど)名前を確認して受話ボタンをプッシュ。聞き慣れた間延びした声のだらけた挨拶、わたしの携帯だってわかってかけてきてるくせに。アドレス帳から引っ張り出さなくてもわたしの携帯に電話かけられるようになったって言ってたくせに。でもこれは毎度の挨拶だから、文句を言うようなものでもない。だから付き合う。

『今日も遅くまで予備校おったんか?』
「そうだよー自習室ばっちり最後まで残ってきました」
『おーえらいなァ』
「今日は苦手な国語がんばったよ!」
『そうかーがんばってんなァ』
「もうセンターまでそんなないしね、国語やばいしね…もうボーダーとか聞いただけで発狂しそう!ボーダー高いわ!」

ケラケラ笑いながら実際は笑えないシビアな話を繰り広げる。喋りながらもわたしは歩いて家に向かっている。いまコンビニの前、あーなんかあったかいもの飲むか買うかしたい。て言うか寒い、コート着てマフラーも巻いてるのに寒い。冬だなあ、冬かあ、冬ってことはセンターまでもう何日だ?予備校の入り口のところにあと50日とか書いてあったっけ、え、50日?50日しかないの?やばい、やばすぎる!

『どないしたんやー急に黙り込んで』
「え、いやいや寒いなーって思って!」

嘘は吐いてないよ!

『そやなァ、今日はまた一段と寒いわ』
「ちゃんと温かい格好して寝てね?いま平子が風邪ひいちゃっても申し訳ないけどお見舞いとか、行けないから…」
『大丈夫やってーなまえの方がちゃんと体調管理気ィつけなあかんねんで?』

お見舞いに行けない身勝手さに声のトーンが下がったけれど、そんなのお構いなしに優しい声をかけてくれる平子の包容力が好きだ。気にし過ぎず、でもちゃんと心配してくれる器用な彼の性格にどれだけ助けられてきただろう。風の冷たさにも勝りそうな、温かみのある声が耳をくすぐっていく。勉強に疲れた体には染みるなあ。

「ありがとう平子」
『な、なんや改まって』
「照れてるの?」
『ンなわけないやろ!』
「うー、でもほんと寒いね今日!」
『そらそんな格好やったら寒いやろ』
「そうなんだよ今日何を思ったかショーパンなんかはいてきちゃっ………え?」

そんな格好、って言った?

「ハイお疲れさーん」

ゆるいカーブを曲がったらそこに居たのはいつもの金髪のおかっぱ。アウターのポケットに両手を突っ込み、壁にもたれ掛かってにんまり笑った。携帯のスピーカーから聞こえる声よりも雑音のない、いつもの声が鼓膜を直接振るわせる。

「ひ、ひらこ」
「今日も勉強がんばったお姫さんをお迎えに来たでー」
「ええ、えええ」

びっくりして歩みを止めたわたしにシンジくんはコンビニの袋を差し出す。豚まんとピザまん、半分こしよと思たんやけど時間あるか?わたしの返事を待たずにその片方を差し出した彼に飛びつきたい衝動をなんとか抑える。そして大丈夫だよと言う代わりにその熱を受け取って思いっきり笑った。ほなちょっとそこの公園行こか。そう言って差し出された手に当たり前のように自分の手を重ねる。ついでに指も絡めてみる。冷たいなかの中心の体温を確かめるようにぎゅうぎゅうと2回握り合って、また他愛のない会話を始める。しあわせだなあ、温かいなあ。寒さも疲れも忘れられるようなご褒美ににやけたわたしの頬を彼の指がつねった。

20101117


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