「なんか俺が泣かせてるみたいやなァ」
「ちが、う」
「わかってるわかってる」

あーなまえ久しぶりや。子どもをあやすようにわたしをぽんぽんとリズムを取って叩きながら首筋に鼻を当てて息をする彼がくすぐったくて身をよじる。それを感じてより力が籠もった腕に閉じ込められて、何とも言えない安心に襲われる。それを合図にまた、目からは。出してしまいたい声を彼の胸に押し込んで、ごめんなさい。千切れた音でもう1回。平子、ごめん。

「俺のこと嫌いになったんか?」
「ち、がう」
「もう別れるとか?」
「………いや、だ」

「ん、ならいいんや」

少し離してわたしの目を覗き込む三白眼。涙でぼやぼやする世界が彼で埋まる、まぶしい金髪、愛らしいおかっぱ。平子を遠ざけるのはわたしの勝手だ、だけど言いたいことは我慢するな。浪人生のわたし、大学生の平子だから、わからないこともたくさんあるだろうけど、迷惑だなんて思わなくていいから、わかって欲しいことはちゃんと言っていい。そんなことを彼は噛み砕きながら言った。この何日間かを、ぐるりぐるりと世界を回転させながら過ごしたのは彼も同じだったみたいだ。

「ゆっくりやってったらええ」
「うん」
「一緒にがんばろな」

骨張った細い指がわたしの涙を掬う。あーあ、こんなに目ェ腫らして。ちゃんと冷やさな明日顔えらいことなるでー。なんてへらへら笑う彼がわたしの目から、耳から、肌から、染み込んでいく。どうやらさっきまでの情けないわたしは涙と一緒に出て行ったらしい。すっきりした身体は随分と軽い。ここが、わたしの本当のスタートなんだろうなとわからないながらに理解する。反発しないで溶けて行った確信は、人肌ほどの温かみを持っていて心地いい。悔しさや妬みといったひねくれた感情は全部、全部、この大きな愛しさに飲み込まれてしまえばいい。そうすればわたしの世界はいつだって正常に廻る。

20101204


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