なかなか来ない返事に落胆する自分に一番いらいらする。何日も返事を寄越さなかったのは自分で、今更相手にすぐの返事を求める方が間違っている。もう返って来なくたって文句は言えない。当たり前のことだ。それでも不安に襲われて落ち着かない自分を携帯にたぷんと注ぐ。メールの受信ボックスに並ぶ待っている名前をなぞる、視線で、ゆっくりと。はやく、はやく、ひらこ、

「!」

見つめていた画面が突然光って、待っていた名前が目に映る。メールではなくて、電話。全身が心臓になったように近くに感じる拍動。焦った頭が受話方法をすっ飛ばした。指先が冷たい。目だけが熱い。あれ、どうやって、出るんだっけ。じいと携帯を睨む。3秒、4秒、5秒。あ。

「…もしもし」
『出てくれへんのかと思った』

待っていた声は自分の記憶より少し低かった。その声を忘れたことはなかったけれど、忘れたような感覚に襲われてまた焦る。ねぇ、わたしちゃんとまだ平子のこと好きだよ。だから、お願い、見捨てないで。

「ひら、こ」
『なまえの声えらい久しぶりやなァ』
「ごめん、ごめんなさい」
『なんや泣いてんのか?』

ず、とみっともない声でスピーカーを振るわせる。泣いちゃだめなのに、きっと泣きたいのは平子なのに。そう思えば思うほど止まらない。回転しない頭に「袖をしぼる」という言葉が浮かんで消えた。古文に捕らわれたままなのは受験生としての病気。いまわたしが着物を着ていたら絞るくらいに袖を濡らしていたかもしれない。平安からの言葉を現在で実感して消化していく妙に冷静な頭が余計にわたしを混乱させていく。

『我慢出来んかったわ』
「…なにが」
『いまなまえん家の前におるんやけど』

電話を切るのも忘れてパンプスを引っ掛けるように履いて、こんな時だけもどかしいくらい重い扉を押す。そこには、少し息を切らせた平子。本日二度目の決壊。家の前なんてことお構いなしで、思いっきり飛び付いた。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -