気を抜いていたわたしもわたしだったとは、思う。

「な、なにやってんねや!」

怒りなんだか驚きなんだか悔しさなんだかよくわからない、とりあえずよくはない感情でぐるぐるになった彼はわたしともうひとり、中学1年生の男の子の霊を睨みつけて言った。み、見られちゃったー。

「お兄さん誰?お姉さんの「いらないこと言わなくてよろしい!」っんんん!」

ああもうはなしをややこしくするなと少年の口を慌てて抑える。でもそれを見た彼は余計になにかに駆られたようで、わなわなしていた。口をぱくぱくしながら。

「な、な、なんでガキとお前がキスなんかしてるんや!」

やっぱりそこかー。とわたしはこめかみを抑える。事情説明すればわかってくれるかな、そもそも聞いてくれるかな。わたしはわたしでぐるぐるが始まりかけていたけれど、そんなときにしびれを切らした彼はくっついていたわたしと少年を乱暴に引き剥がす。少年を投げなかっただけ彼は理性的だった。だけどなんだかもうその剣幕はすごかった。

「だってシンジ」
「…だってなんやねん」

魂葬されるの怖いって言うから、どうしたら安心できる?って聞いたらわたしにキスさせてくれたら大丈夫だって、言ったから。そう言ったわたしは本気だったけれど、彼も少年も男という共通点からか、なにかを悟ったみたいだった。ぷちんと切れた彼は少年との顔の距離を極端に詰めて、叫ぶのではなく低い声で言った。

「ガキやろうと関係なく俺の女に手ェ出す男は許さんで」

さすがにそのドスの効いた声、それから言葉にびっくりしたのか少年は目を見開いたまま動かなくなっていた。心なしか目尻には涙も見える。シンジ、それはちょっとやりすぎでしょう。少年の腕をひっぱってしっかりわたしの腕に閉じ込める。背中を叩いてあげる。また叫びそうになった彼にわたしは重ねた。

「ヤキモチ焼いてくれるのはすごくうれしいよ」
「でも、こんな小さくて弱い魂魄に大きくて強いシンジがそうやって怖がらせちゃだめ、謝って」

「なんで俺がこんな」
「謝って」
「…っ」
「じゃなきゃもうキスもしない」

その言葉はわたしの期待以上に効いたらしく、今度はさっきより少しだけやさしく少年をわたしから離して、小さな声で「スマン」。それから小さくふっと笑ったわたしの唇をその唇で軽く啄んだ。少しずつ熱が集まってくる顔を冷たい手で慌てて押さえる。少年は少年でにやにやしていてなんだかわたしだけ置いていかれたみたいだった。

「こんな下心で出来たガキなんかはやくあの世でもこの世でもその世でもどの世でも送ってまえ!」

嫉妬で出来たいまの彼に笑い出した少年は彼より少し上手。ぽんぽんと頭を撫でてもう大丈夫ね、と言って送り出す。お兄さんもお姉さんも仲良くねーと手を振った少年の前で今度はわたしがシンジにキスをしてやった。また笑って消えて行った少年にやかましいわと呟いた彼の耳は心なしか赤い。

20101119


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