今朝見たあの姿が忘れられなかった。今日は1日、あの姿でいっぱい。少し下心の見え隠れするような甘い撫で声でわたしの足元にすり寄った、あの猫。男の子なのか女の子なのかということもわからないけれど、とにかく美しくて、脳裏に焼き付いた姿を思い出しては温かいため息をつく。

「こんなところにいたんですか」
「あ、ゆうた」

わたしは結局放課後になって、一緒に帰る約束をしていた悠太の携帯に「初恋の相手をさがしにいってきます」とメールを残して、その猫に会った道のそばの公園に来ていた。当然帰り道にはあたる、でもわたしはそこでゆっくりもう一度だけあの猫に会いたかった。ベンチに腰掛けてそろそろ30分。猫が現れる気配は少しもない。

「初恋の相手?」
「うん」
「公園で、探すの?」
「うん」

少し呆れ顔で悠太はわたしの横に座る。ふわりと悠太の匂いがした。

「猫なんだ」
「…猫?」
「今朝見た、猫」

そこでやっとわたしは事情を話し始めた。今朝登校中に猫に会ったこと。その猫がとても美しかったこと。そしてその猫を忘れられないこと。もう一度会いたいこと。

「君も相変わらずですね」
「ですかね」

そこにあった花の花びらを1枚ずつひらりひらりと散らせながらちらりと悠太を見ると今度はすごく柔らかい表情でわたしを見ていた。少しずつ冬の気配を感じさせる季節に似合う暖色な表情。もう一度浮かんだあの猫。ああ、悠太にも見せてあげたいなあ。悠太もきっと気に入ってくれる。

「悠太への好きとは少しちがう好きの感じ」
「そうなの?」
「なんか、恍惚って感じ」

むずかしいなあ、と笑って肩をすくめた悠太に、悠太にも見せてあげたいと言ってみる。自分の猫なわけでも、誰か知り合いの猫でもない。まして誰かの猫なのかすらわからない。会える保証はどこにもないけど、とにかく。わたしの心をさらったあの猫を、わたしの動物への初恋の相手を、共有したいと純粋に思っただけ。

「オレも、恋のライバルはちゃんとチェックしておかないとですね」

二人して隠れてにやけて、公園を見渡す。それから少し悩んでわたしは立ち上がった。どこ行くの?と心底不思議そうにわたしを見上げた悠太に、勝手に帰っちゃったおわびにそこの自販機のジュースをごちそうします。と財布を見せる。え、一緒に行くよと言い出した悠太にそのあいだに猫が来たら嫌だから待っててねと言って、返事を待たずに歩き出す。気をつけてね、いってらっしゃい。背中からわたしを追い越さないスピードで投げられたことばをくすぐったくもキャッチして、歩くペースを上げた。早く悠太のところに帰ろう。わたしが帰ったときには悠太があの猫を抱えているような気がする。根拠も何もなかったけれど、なんとなくそんな気がした。

20101117


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