鳴ったインターホンに慌てて駆け寄った。

「はい」
『………オレです』
「えっわ、早くない?玄関開けとくから入っといて、ちょっとわたし着替える」
『…わかりました』

ガチャンとそれを切って、ぱたぱたと玄関へ走る。鍵をぱちんとはじいて背を向けて、部屋に入った。後ろ手にドアを閉める。約束の時間より1時間も早いご到着。きっと彼のことだからノープランで家を出て、近所の本屋で立ち読みでもしていたんだろう。それでお目当てを読み切ったから時間お構いなしに来た、と。うん、彼らしい。そんなことを考えているとちょっと大きい音が家中に響く。ドア越しにいらっしゃーいと叫ぶと小さな声でお邪魔しますと聞こえた。小さいながらにも挨拶をちゃんとするのはきっとお兄さんのしつけに違いない。ってそうじゃなくて、はやく着替えてしまわないと。あんまり長く待たせると拗ねかねない。着ていたスウェットを脱いで下着を整える。たたむ前に足元にスウェットを投げた。くしゃりと小さくなった灰色は楽で動きやすいけれど、流石に彼氏の前では、まだ。…あ、そういえば。

「祐希さんー」
「なんですか」
「コーヒーでもいれましょうか」
「あー、お願い、します」

ズボンを脱いで最近一目惚れして買ったばっかりのスカートをはく。それから黒タイツを合わせる。上はボタンを留めないでブラウスを羽織っただけ。…ブラウスには何を合わせようか。うーん悩ましい。

「あ、それとねー」
「はい」
「お菓子とかいろいろあるんですが」
「…はい」
「なに食べたいですかねー」

がしゃがしゃとクローゼットをあさる。今日は外に出る予定ないしカーディガンでいいか、と、それを取り出して羽織る。ブラウスのボタンはそれから。上からぷちぷちと留めていく。あれ、そういや祐希さんだんまりですか?悩んでるのかしら、まあいろいろあるから仕方ない。コーヒーにあう、

「お菓子よりも」
「はい?」
「…食べたいもの、が」

あら、あ、ら、祐希さん?お菓子、って、言ったじゃないですか。コーヒーにあうのがよかったんですけど。ブラウスのボタンも、まだ半分くらい開いてたり、するんですが。さっとある光景が脳裏を過ぎる。もはや自分に拒否権なんてものはないんじゃないだろうか。

「えっと」
「…」
「まさかドアノブに手かけてたり」

流石、そのまさかです。



20101121


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