送信ボタンを叩く。アイスを分けてあげるよというお誘いのメール。すぐに「送信完了」の文字が躍って、その1分後くらいに「行く」と二文字だけの返事があった。素っ気ないだとか、そんなことは特に思わず、ただ画面から目を離した。そうこうする間にもアイスは溶けていくのだから、とにかく早い到着を待つ。水滴がぽたりぽたりと制服に落ちて、じわり、にじむ。思い付いた案としてアイスを自分の影に入れ、小さくあくびをしたころにだらだらと現れた彼は何も言わずに私の隣に少しの間隔を残して座った。私はぬるい床に三角座り、彼はあぐら。差し出したアイスをピッと取り、 小さな水滴をとばしながらぱくりと二人同時に一口めを頬張る。空気中にひそむ温度にやられて少しドロリとしたそれは、口いっぱいにしあわせな甘さと冷たさを広げて喉を通っていった。ちらりと横目に見た彼もしあわせそうに少し目を細めていてなんだかかわいかった。何も言わなくたって伝わるいつもの場所、人通りの少ない校舎の陰。いつもそうだ、私たちの間のことばは極端に少ない。おいでとメールをすれば打ち合わせなんてしなくてもここで会えるし、このわずかな互いの隙間は、くっつくことでお互いを不快にすることのない一番近い距離。ふわふわした目線を少し落ち着けてじっと彼の口元を見つめると、黙って食べさしのアイスを渡され、私の手のものを取られた。さすがだなあ、正解。つい今の今までこの手にあった量より明らかに少ないそれを口に含む。全く同じ味だけれど、それをさっきまで彼が食べていた事実にすべての意味が含まれる。もう何も言わなくていい。少し身体が冷えてきたので間隔を詰めてみる。水滴に濡れた大きな手が私の手に重ねられたのを感じた。これも全部、伝わっちゃうのか。今度のは少し、ずるいね。



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