ざくざく、ちょきん、ぱらり。重なってげらげら笑う。足元には金の髪と黒とも茶ともつかない髪。お互いの手にはハサミ、向き合ってそれを向け合った。
「次は前髪切ろっか」
「別嬪さんにしたるわ」
ギザギザだったりまっすぐにだったり段が入っていたりいなかったり、そんな後ろの髪にはもう目もくれずに相手の目の上に指先の凶器を通す。指にぎゅんと力を入れてわざと斜めにざっくり切ってみる。眉の上の中途半端に空いた隙間が妙におかしくて、ハサミを投げ出して笑った。同時にあちらさんも笑ったので多分よく似たことをしたんだろう。安い大きな鏡を取り出して頬がくっつきそうな距離でそれを覗き込む。
「考えること一緒やんけ」
「同じだけバカってことだよ」
色だけが違う、ほぼ同じ角度に歪んだ前髪がふたつ並ぶ。あ、お揃い。ふっとそんなことを思ってからだが熱くなったけれど、その言葉は唾と一緒に飲み込んだ、だって恥ずかしい。
「バカとはなんやバカとは」
「だってそうでしょ」
「お前なんかと一緒にすんなや」
一緒にさせてよ。また言葉を飲み込む。だって好きなんだもんいいでしょ。バカさ加減でも前髪のおかしさでも、なにかひとつお揃いなだけでうれしいもんなんだよ女の子ってものは。ああ、もう。
「わかってないなあ」
落ちた髪を踏んで少し足がすべった。鏡を閉じる。リップを出そうとかばんをあさる手を、強く押さえられる。
「なにがわかってないって?」
吸い込まれそうなくらい、それに噛みつきたくなるくらい、目を見られる。心臓が悲鳴を上げて、ポケットに押し込んだ秘密が動いたような気がした。そんなはずないのに。
「全部お見通しやわボケ」
切った俺の髪、自分のポケットに入れたやろこの変態。前髪もお前が俺のん切るの見ながら同じように切ったったんやぞ、ほらお揃いって、笑いたかったんやろ。ホンマわかりやすいなお前は。じゃあ当てたろか、次にお前がしたいんは、
「平子、チューしようよ」
「言われんでもそのつもりや」
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