耳に当ててるだけでいいから、電話でれるか?

あまりに寝れないのでメールをしてみた、二十六時を少し過ぎた時間。きっと寝ているだろうと返事は期待していなかったのに、十分くらいしてわたしの携帯はパチパチと光った。返ってきたメールの内容は冒頭の通り。電話なのに話さなくていい?どういうことだろう。でも時間が時間だし声は出せないしなあ、なんてぐるぐる悩みながら「ありがとう、大丈夫だよ」と返信。すぐに同じ色で携帯が光ったので、言われた通り受話ボタンを押して耳に当てるだけ当てた。

『俺が目ェ冴えて寝れんときにいっつも聴く曲、ジャズですごい落ち着くやつやから、ちょっと聴くだけ聴いてみィ』

そう言うだけ言って俄かに向こう側がガチャガチャとうるさくなる。少し、移動しているらしい。そうして静かになって、やんわりと聴こえてくる音があった。ああ、なるほど、これは、落ち着く。いつも、彼はこんな曲を聞いてるんだ。妖艶なトランペットのおとと、ウッドベースが気持ちいい。静かに耳を傾けて数分、なんとなく息が深くなってきたので、ふうと空気のかたまりを吐き出してから枕と耳で携帯を挟んで全身の力を抜いてみた。すると先程聞いた声とこのジャズのおかげかすぐにとろとろと微睡む。もっと息が深く長くなる。重たくなってきた瞼を、ゆっくりと、下ろす。落ちる。

『寝れたか?』

遠慮がちに笑った声が耳から抜けて、心地よくてくすぐったい。それが深みへと、わたしの手を引いてくれる。

『じゃあ、おやすみ』

耳障りな終話音が聞こえないくらいの深さに、ふわふわと寝息がひとつ。午前二時半。

110317


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