「いいの?平子くん」
「なにがいいの?なんやろなァ」

たとえばあなたは生徒でわたしは先生だとか、たとえばここは学校、それも保健室だとか、たとえば、あなたに組み敷かれているこの状況とか。言えることは山ほどあるはずなのに、なにも出て来ない。やっとのことで滑り落ちたのは本能的な挑発のことば。

「叫んでも、いいんだよ」
「叫ぶんやったらとっくに叫んではると思うんやけど」

違う?違わへんのやろ、なァ先生?体重をかけられた右手、わたしの顔の左側でぎしりと軋む安っぽいベッド。保健室ならではの陳腐な白さが目に入る。目の前でばくりと広く開いたカッターシャツから男らしい胸元が見えて、そのたくましさに吸い込まれる。その、すごく、いやらしい身体。そんなことを考えた次の瞬間にはまた大きな音をたててベッドは軋んで、細い髪が首筋にかかった。鼻と鼻がかろうじてぶつからない、それでも確かにすぐそばにはそれがあるのがわかる、妙なくすぐったさが背筋を駆けるような近さ。わたしのことばなんかとは比べられないほど挑発的な細い目がわたしを絡め取っていく。重力に従っていた髪を耳にかけられて、次に見えたのは舌先のピアス。首筋を、べろり。

「なんや物欲しそうに俺のこと見とったから、つい舐めてしもたわ」

くすりと笑ってからもう一度、今度はわざとらしくぎしりぎしりと身体を上下に動かして、次は唇を這うように舐められる。人肌より少し冷たいその金属が不思議な感覚でわたしの口元から侵食していく。すべてのスピードが気持ち悪いほどに遅い。おそい。身体が動くたびにその睫毛の一本一本がゆっくり揺れるのがわかった。少し、綺麗すぎる。

「なーんや目ェとろんとさせて」
「期待してるんか」

気持ちはそうでなくても、身体は完全に屈服していた。保健室の見慣れた白が今ではすごくやかましい。金髪が、映える。わずかに口角を上げてみる、それが、今自分に出来る最大の挑発。

「ええ顔、そそられる」

そのまま耳元に噛みつかれた。少し荒くなった息が耳から全身に震えとして瞬間的に走る。喉の奥から漏れかかった声をなんとか必死に飲み込んで、流されていく身体をつなぎ止めようとする。もう負けに等しいのはわかっていた。熱い息に混じって聞こえたのは「淫乱」、短い息で笑われる。ぷちんと静かに途切れた理性。生徒と先生の立場が、保健室が、男と女に、そして舞台へと変わる。耳のなかに投げられた自分の名前が何重にも波打って足先まで染み込む。その目の中に歪んで映る自分を発見。ああ、わたしだけしか見ていない瞳がそこにあるのだ。高揚。

20101211


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