顔に出てるよ。そう言って手を繋いでくれることがよくあった。そのときのわたしは本当に、悠太くんと、手を繋ぎだいと思っていた。だから、本当にわかりやすいのだと思う。この前のデートのときは、ついに、キス、したいの?と聞かれてしまった。恥ずかしいながらに否定出来なかったわたしに悠太くんはやさしくキスをしてくれた。びっくりするやら嬉しいやらで半泣き状態になったわたしの頭をやんわり撫でながら悠太くんは本当に君はわかりやすいね、と言った。だけどまさか、こんなことになるなんて、思わなかった。わたしに魅力がないのかなあと悩んでいたのは事実だったけれど。

「なんて、目、してるの」
「え…?」

「だめだよそんな顔、しちゃ」

悠太くんの手がわたしの髪を耳にかける。それからその手で頬を包む。だけどいつもと違う。今日の悠太くんは、そう、まるで壊れ物を扱うかのような。

「悠太くん、どう、し」

そこまでしか言わせてもらえなかった。そこでわたしに訪れたのは、わたしの知らない、濃厚なキス。深くて深くて、激しくて、いつもより荒い、だけど、やさしい、キス。わたしの唇を食べちゃうんじゃないかって、思うようなそれは、少しずつわたしを浮かせていく。ゆうた、くん。

「っふ、あ、…ど、し、たの」
「だって君が、そんな目、するから」

そう言ってまたさっきの続き。わずかに後ろに傾いたわたしの首の後ろあたりを悠太くんの大きな手が支える。それでも傾いていったわたしの頭はなにか固いものにぶつかった。それは他でもない壁。そして大変な事実、わたしは、悠太くんのベッドの上にいる。そして、壁に追い詰められてしまって、いる。もう、逃げられない。気付いたら悠太くんのわたしを支えていない方の手は、わたしの、足元に。わたしとは熱の違う冷たい手が触れる。くすぐったさに似た、だけど違う熱さが脳天に走る。ひっ、と息を飲んでしまう。少しぎこちない動きでその指がわたしの足が這った。しびれるような熱。こんなの知らない。

「や、っ」
「ごめん、嫌、だった…?」

申し訳なさそうに手を離してやさしく前髪を撫でてくれる。嫌?そんなこと、ない。だけどあれ、なんだったんだろう。友だちに触られても、なにもないのに。悠太くんが触ったときだけ全身の細胞がざわり。身体の真ん中に熱が集まる。

「だいじょうぶ」
「ほんと?」

小さく頷くと強張っていた悠太くんの表情がほぐれる。それから照れたような、困ったような、そんな顔。

「まさか、君が、そんな顔、するなんて」
「…」
「思わなかった、から」

ごめんね、怖くない?いやだったら、言って。言葉をぷつりぷつりと切りながら悠太くんは小さく小さくキスをわたしに落とす。やさしさしかないような、気持ちいいキスに誘われるようにわたしはゆっくり目を閉じた。悠太くんの言う顔、目、と言うのはきっと、いつもの、顔に出やすいというあれだろう。いいよ、悠太くん、全部、忘れさせて。ぎゅううと力を入れていた肩をやわらかくして、悠太くんのことだけを考えてみる。わたしの名前を呼ぶ大好きな声が耳からなめらかに流れ込んでこそばゆい。何も知らないわたしだけど、気持ちだけは一人前です。おもはゆい、おもはゆい、わたしの心の真ん中からあふれる温かな色が、悠太くんのすべてを包み込むといい。

「そんな顔されたら、オレ」

なにかが切れるみたいな音がしたような気が、した。


20101126


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