猫とねずみとお友だち 01 昔むかしあるところに、仲の良い猫と鼠が一緒に暮らしていました。 冬の訪れは、もうすぐそばです。 冬になれば、『獲物』が減り、ひもじい思いをすることになってしまいます。猫は鼠に提案しました。 「ネズミちゃん。冬の貯えをしておこうよ」 「『ちゃん』はやめろ。…だがその提案は、まあ悪くない」 そこでふたりは、夜の裏路地へと出掛けました。 「あいつは? ほら、そこの髪の白いの」 「却下だ。お前には丁度いいかもしれないが、私の手には負えそうにない」 「…関係ないじゃんか、ネズミちゃんには、デカさなんて」 背の低い鼠と上背のある猫とでは、なかなか丁度いい『獲物』が見つかりません。ふたりの好みが違うのです。 「あいつは? アレならいいんじゃね?」 「そうだな、あの細さなら、まだなんとか」 ふたりが目を付けたのは、猫よりは背が低く、抜けるように白い肌の青年でした。 「お兄さん、お名前は?」 にっこり微笑む鼠に、なんだか危ない気配を感じて「ら、ラード…」一歩後ずさりながらも、青年は一応名乗ってくれました。いいひとです。 その背中が、とん、となにかにぶつかります。 「あ、すみませ──」 振り向こうとしたラードを、ぶつかったなにか──猫が、笑顔で羽交い絞めにしました。 痛みに顔を歪める彼の口許に、突然白い布が当てられます。 「な…!」 ラードは声を上げて助けを呼ぼうとしますが、布に染み込ませてあったお薬の香りを吸い込んで、くったりと猫の腕の中に崩れてしまいました。 「相変わらずエグいなー、ネズミちゃんの薬」 「『ちゃん』はやめろ。私の身長で渡り合おうとすれば知恵がいる、必然だ」 楽しそうに猫は笑い、鼠はちりんと銀貨を路地に弾きます。それを誰かが受け取って、「毎度」と小さな声が返りました。 こうして猫と鼠は、ラードを買いました。 [*前] | [次#] 『淫行童話』目次へ / 品書へ |