淫妖奇譚 参 03 「…今日は駄目みたいだな。帰るか」 『良かったな。ゆっくり休め』 「…なんでそんな優しいわけ…?」 そして川に背を向けたとき、ざばりと水の音がした。 え、と思った瞬間には、双葉の身体は、川の中に引きずり込まれていた。 「──げほッ! お゛ぇッ!」 引き上げられた岩場の上で、双葉は盛大に飲んだ水を吐き出す。 苦しくて、胸が目が鼻が痛くて堪らない。 身体に張りついた服が重い。 「げほげほッ! ごほッ! う゛ぅ…」 「手荒な真似をしてすまないね。君の中にいる彼が邪魔しそうだったんで」 「う゛…?」 涼やかな声に顔を上げた途端、双葉は言葉を失って硬直する。 そこにいたのは、紛れもなく河童だった。 緑色のぬるぬるした肌、亀のような甲羅、口は嘴で、手足の指には水掻き。 だが双葉が1番対処に困ったのは、その股間のイチモツだった。 筋まで立った立派過ぎるソレに、正直、目のやり場に困る。 にい、と河童が笑う。 「ここは私の巣だよ」 「は…っ、あ、あなたが、げほっ、この川の、新しい主、ですか…?」 色々と混乱しながら、とにかく双葉は視線をソレから逸らしながら問う。 そんな双葉の様子に、河童はまた笑った。 「そうとも。君の用事はそこの村の供え物だね。確かに受け取ったよ」 言われてみると、河童の背後にはあの胡瓜が積まれていた。 役目を果たせたことに双葉が息をついたとき、河童がしゃがみ込んだ。 [*前] | [次#] 『幻想世界』目次へ / 品書へ |