淫妖奇譚 参

02


 川辺に座って、双葉は流れを見る。
 目の前には、村から預かってきた大量の胡瓜。

「先日この川の主が力を失ったというから、その後釜か…。なら、崇め敬えばなんとかなる、はず…」

 独り言でも言わないと、考えがまとまらなかった。
 熱があるのかもしれない。だが、まだ動ける。病は気からだ。

 それにしても。川を見つめながら、双葉は呟く。

「…怖いな…」

 双葉は泳げない。この時代、川は多くにとって恐怖の対象であり、泳げる者の方が少ない。
 だから怒りを買えば川に引きずり込んで殺すという河童は、こんなことでもなければ会いたくない妖怪だった。

『双葉、無理はするなよ』
「なんだよ、急に…平気さ」

 妙に優しい犬神を気持ち悪く感じながらも、ぼんやりと待つ。
 河童を呼び出すのに特に儀式は要らない。その代わり、河童の気まぐれに付き合わなければならなかった。

「なー…尻子玉って、本当にあるのか?」
『うん?』
「尻にある臓物で、抜き取られたら死ぬって言うだろ」
『そんなものがあったら挿れるのに邪魔だな』
「……。や、まあ、俺もそういう発想でお前に訊いたのかな…」
『いや待てよ。何かそれっぽいものはあったような』
「あーいい、もういい」

 また試してみるだとかそんな方向に話が進まない内に、双葉はその話題を切り上げる。
 その他もいくつか実に下らない会話した。この退屈な時間に話し相手がいるというのは、少しだけ、ありがたかった。

 しかし陽が沈む頃になっても河童が姿を現すことはなかった。


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