不協和音2

02


 卓也はもちろんやめる事もなく、ポケットからなにかを取り出して俺の口に押し込んだ。指のような形に、円形の台座。舌触りはなんだかしっとりして滑らかだった。シリコン、だろうか。


「んっぅ…っ?」

「ねぇ、チュウはした? えっちは? こうしておっぱいは触った?」

「んっむ…、んぅ…ッ」


 既にシャツをつんッ、と押し上げている突起を爪でカリカリと掻かれるだけで腰が揺れる。恥ずかしくて涙が浮かんだ。


「んッ…んッ…」


 口の中に入れられたものを吐き出すことも忘れてその刺激にくらくらと思考が蕩けていく。



(だ、ダメだ!)



 流されやすい自分を、俺は1番よく知っている。


「ッ、」

 ウィン、ウィンウィン…っ

「っ!?」

 卓也の躯を押しのけようとした途端に、俺の口の中いっぱいに押し込まれているなにかが回転を始めた。


 舌やら頬の内側の肉やらを嬲られる感覚が気持ち悪くて吐き出そうとしたら卓也にそれを引っ張り出された。唾液でべたべたになったそれが回転している様は、俺の血の気を引かせるのに充分だった。


「大人の玩具だよ。兄さんのエッチな場所を拡げて柔らかくして、もっといやらしくしてくれる道具」


 ヌルヌルしている性的な行為を目的としたものが卓也の指にあるのが、やたらと恐怖を煽る。遠隔のスイッチを切ると動きが止まった。


「しばらくシてないからね。兄さんのナカ、またハジメテみたいになっちゃってるかもしれないから。しっかりほぐして、ちゃんと気持ち良くしてあげるよ」

「ッお前とは、二度と、なにもしねぇ…ッ!」


 カーテンの向こうには彼女がいる。こんなとんでもない会話を聞かれては堪らない。

 声を潜めて拒絶した俺に、卓也は眼鏡の奥でにやりと笑う。


「いいよ? 逃げてくれても。兄さんが出て行ったら、この玩具は佐藤さんに使う事にするから」
「なッ!?」

「睡眠薬で眠ってるから、ある程度悪戯されても起きられないかもね」
「す、睡眠薬…っ?」

「兄さんにメッセージ送ったのも俺だよ。佐藤さんて処女? 兄さん、知ってる?」


 彼女の眠るベッドのカーテンに手を掛けた卓也の腕を、俺は夢中で掴んだ。振り返る顔に、首を振る。卓也が笑う。



「さすが兄さん。彼女を見殺しにするなんて出来ないよね。じゃあ俺とセックスしてくれる?」

「ッ、…!」

 ちゅ、と。軽く唇を触れ合わせて弟が問う。



 彼女を抱き抱えて逃げるのは現実的ではない。そんな事をしている間に卓也は俺に悪戯をするだろうし、そうこうしている間に俺は抵抗できなくなる。

 けど、彼女を置いていく選択肢なんてない。

 例え卓也が彼女に興味がなかったとしても、卓也は実行する。実行するだろうと、思わせられている時点で俺の負けだ。

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