不協和音2

01



 実の弟に犯されてから、1週間。

 出来るだけ俺は卓也とふたりになる瞬間を減らすように意識して過ごして来た。

 それはもちろん友人だったり、付き合い始めたばかりの彼女だったり、親だったり。

 元より人付き合いは悪くない方だったし俺と卓也の仲は良くはないから、特に誰かに疑われている、と言う事はなさそうだ。…卓也以外には。


(いや、ねぇから、マジで)


 例え俺の事を好きとかどんなに言われても、弟だし男だし、そもそも躯触りまくって調律してた、とか言う変態には普通に近寄りたくない。

 部屋には簡易ながら内側からしか開かない鍵も付けた。



(…あー…キスしたい)

 渇くような感覚に、俺はさっさとお付き合いしてる後輩へとメッセージを送った。

 彼女が出来て良かった事は、キス魔の俺としては合法的にどんだけキスしても許される…ってところに尽きる。

 さっさと学校に行って、物陰でちょっとキスさせてもらおう。
 邪で下心しかない思いで、俺は学校に向かう。



 気を抜いていたわけではない。

 ただ俺は、卓也の執着を甘く見ていた。






 不意に彼女から届いたメッセージ。

「『保健室に来て』? 体調悪いのか…?」

 いつもより素っ気ない文字面も、それなら理解できる。


 時間はもうすぐ5限が始まる頃ではあったけれど。助けを求めているなら行ってあげたい。

 俺は隣の席の友人に教師への伝言を依頼し、保健室へと向かった。

 養護教諭はいなかった。


 ふたつ並んだベッドのひとつ。カーテンの掛かっているそれの前に立ち「佐藤?」呼んでみるが、応答はない。声を掛けてカーテンから覗けばそこに彼女が眠っていて、俺はひとつ息を吐く。

 顔色が悪いわけでも、苦しそうな表情をしているわけでもなかった。落ち着いて眠れたのならそれでいい。

 そっと額に手を当てても熱もないから、そこに触れるだけのキスを落とし、俺はカーテンを閉めて保健室を出ようとした。



「ひぅッ!?」



 なのに保健室のドアに内側から手を掛けた途端、背後から抱き締められて躯が自分でも驚くくらい跳ねた。


「やっと捕まえた、兄さん」
「卓ッ…!?」


 耳に囁かれた声には、嫌と言うほど聞き覚えがあった。俺の実の弟、卓也のものだ。

 1週間避け続けていた、弟。


「佐藤さんとは仲良くしてるみたいだね。彼女は可愛い?」

「っは、離せ馬鹿っ…!」


 躯に回された手が俺の胸やら腹やらを撫で回してきて、嫌でも俺は以前の性的暴力を想起せざるを得ない。耳に熱が登る。

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