もう耐えられません

05


 肩を竦めて平然と告げる男の顔を、ぽかんと見上げる。さすがにかなり朧げだが、そう言えばバイト先の塾に『後藤』という名の生徒は…確かに居た。

 俺の反応は想定済みだったのだろう。気を悪くした様子もなく、にっこり笑う。その表情は当然ではあるのだが、後藤によく似ていた。


「ビックリしたよー、こんな偶然ってあんだね。弟の家漁って出て来た画像データが、かつての自分の塾講とのハメ撮りばっかだったからさ」


「ッ!!」
 かぁあ、と顔に熱が昇る。

 全く動けない俺に、柔らかそうな対面のソファから立ち上がった後藤の兄が近付いてきて、俺の顎に指先を添える。


「せんせ、アイツのち○こ、そんな気持ちいい? あんあん女みたいに啼いて、いやいや言いながらもイきまくってたねー。ビックリし過ぎて俺、ほとんどの動画見ちゃったもん」

「なッ!?」


 相当数あるはずだが。いやそんな馬鹿げた理由よりも。

「…ッそ、そういう嗜好でもない、のに…?」

 確認ならひとつで充分だろうし、三十路前の顔見知りが女役をしている映像など、そう見たいものでもないだろうに。

「えー、そういう嗜好でもないのに脅されてヤられまくってイきまくってる先生が言う? ソレ」
「ぅ、く…っ」
「正直、ホントに俺そんな趣味ねぇのよ。でも知ってる顔にさ、『後藤、後藤』って自分の名前呼ばれながら啼かれたら、ちょっとクるモンがあったよね」
「ッ…!」

 けらけら笑って、顎から手を離して後藤の兄は向かい側のソファにもう一度腰を落ち着けた。

「…それで?」

 男色趣味がない、と改めて明言されたのに、俺の痴態を写した動画には興味を持ったという男への恐怖心が消えない。警戒しながら俺は問う。

「後藤にもう近付くなとかそういうことですか? それは後藤に言ってもらえませんか。ご存知の通り、私は脅迫されて」

「ち○こケツに咥えないと射精できねぇ躯にされといて、アイツから離れることできんの? 先生。『あいしてる』んでしょ?」

「ッ!? あッあれは…!」

 再び言葉を失う。俺の躯の変化は、後藤に俺も動画を無理やり見せられたから知ってはいる。覚えては、いないが。

 後藤の兄はソファで姿勢を変えた。にぃ、と口角を上げる。


「ところで先生。アイツとうちの親の話は聞いてる?」


 親。
 確か、ほとんど勘当されてるとか、なんとか。

「多少は知ってそうだね。ねぇ考えて? 俺がなんでアイツの画像データなんかこっそり漁ったんだと思う? ほぼ絶縁状態の親父の言伝届けにわざわざ会いに行く前にさ?」
「…、…?」

 眉に皺を寄せた俺に、くすくすと後藤の兄は笑った。



「弱味を握るためだよ。んで、言うこと聞かせるため」



 はっきりと、その男は笑って言った。

 ぞゎッ…! と冷や汗が浮いた。
 家族のやりとりではない。

「アイツにも使い道が見つかってさ。一応OKはもらってんだけどね、内心は嫌がってっから。嫌だろうとなんだろうと完全に拒否できねぇ形にしたいわけ、俺らは」
「そ、んな、」


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