もう耐えられません

03



(が、学校の関係者…?)

 岡部のような『仲間』だろうか。声に聞き覚えはない。誰だ。誰だ。誰だ。


 そのとき、実に普通に、玄関のドアが開く音がした。そして、廊下を走る音。部屋のドアを叩き壊さんばかりに開け放つ音。


「先生!!」
「ぁ、」


 後藤だ。

 途端に俺の全身から力が抜けた。

(良かった、無事、)

「誠一、先生になにした」

(…せい、いち?)

 後藤の聞いたことがないくらい低い声は。


「おいおい、お兄さま、だろ? ただ俺が来たときにはお前とのセックス思い出してひとりでもじもじ勃起させてたエロいこのひとを眺めてただけだぜ?」


 ぺらぺらと嘘を並べ立てる傍の男の声と、よく似ていた。





「大丈夫? ほんとにアイツになにもされてない?」
「ぁ、ああ…」

 丁寧に丁寧に後藤は俺の拘束と目隠しを解き、しっかと抱き締めて唇を重ねる。じわじわと俺の中のなにかが溶けていく気がした。

「、さ。さっきの…誰…?」
 もう、分かってはいるけれど。

 後藤は苦々しい顔で吐き捨てた。


「後藤誠一。俺の兄貴で、プロトタイプでハイエンドな後藤家の嫡男だよ」


 後藤自身を兄のスペアなのだといつか言っていたのは、俺も覚えている。

 何度も何度も慰めるみたいにキスを繰り返す後藤に、嘘を吐いた後ろめたさが募る。触られたし、乳首も舐められたし、それが後藤じゃないと分かっていたのに、勃起した。

 いや、俺は元々結局恐怖よりも快感が勝ってしまう躯だけども。最初の強姦の時から。
 だからと言って情けない気持ちは消えないし、見知らぬ相手にさえ腰を振る淫乱になったとは思いたくない。

 そう、俺は後藤に脅されているからこんなに躯を重ねているだけで。

「恥ずかしいとこ見せてごめんね。ちょっとだけ待ってて」

 そう告げると後藤は兄を待たせているリビングへ向かう。怒りに低い後藤の声は廊下とドアを挟むとほとんど聞こえないが、ふざけているらしい兄の声は時々聞こえる。

「だーからマジでなんもしてないって。俺はお前と違ってホモじゃねぇし。ここに来たのは親父に言われたからだし」

 いくつか会話を交わして僅かの時間で兄は帰り、疲れたように後藤はベッドの上で俺を抱き締めた。俺の胸板に額を預けて、ただ甘えるように。

 後藤は兄のスペアであることから逃れるために、ゲイであることをカミングアウトしたと言っていた。

(だからあの触り方か…)

 興味本位、というような兄の触れ方を思い出す。

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