もう耐えられません 01 その日は金曜日だった。 昼休みも放課後も後藤の都合だとかで呼び出しはなく。 だが残業を終え駐車場に向かうと、車の陰にまた後藤が居て、にっこり笑って携帯電話を見せながら脅迫の言葉を俺の耳に囁いた。 「久し振りにベッドで恋人みたいにえっちしよ?」 「ッ!!」 かぁっと耳まで熱くなったのが分かったけど、俺に逃げる術なんてない。 自ら犯されるために後藤の家へと向かい、『このために我慢してた』なんて馬鹿みたいな『都合』を聞かされながら、軋むスプリングの上で夜通し犯された。 だから夜が明けて土曜日。 の、はずだ。分からないが。 手を動かすと、頭上でひとつにまとめられ、ベッドに縛り付けられているらしくぎしぎしと音がする。足首もそれぞれどこかに繋がれているようだ。 開いた睫毛には布のようなものが触れる。顔を動かすと皮膚が引っ張られる感覚がして、目隠しの上から更にテープで外れないように固定されていることが分かった。 肌に触れるシーツの感覚からすると、素っ裸であることは間違いなさそうだ。 「ご、…後藤…?」 恐る恐る声を出してみれば、見事に掠れていた。 俺の声には、ただ静寂が返る。 まさかあいつ、人をこんな格好に仕立てた上でまたバイトに行ったのだろうか。とういうか、これだけ好き勝手されてなお起きなかった俺、どれだけ疲れてたんだ。 躯のナカになにも道具とかそういうのが挿れられてないらしいのが唯一の救いだろう。 「…」 仕方ない。 不自然な格好で身体は痛むものの、後藤が居ないのなら帰ってくるまではどうしようもない。 諦めて少しでも楽な姿勢を探すべく身動ぎした俺の顔に、 「ひっ!?」 触れた手があった。 「後藤!? 居るなら言えよ…!」 「…」 だが、後藤は応じない。黙ったままさわさわと俺の顔をなぞり、耳たぶに触れる。 「なっ、おい、ご、後藤…?」 耳の形を確かめるみたいに撫でられて、ぞわ、と肌が粟立った。違う。この手。触り方。 後藤じゃ、ない。 「っだ、だれ…」 途端に恐怖で更に声が掠れた。息がうまく吐けない。身体が震え出すのが分かる。歯の根が合わない。 縛られた腕が痺れて痛い。ぎしぎし。ばかみたいに遠いところで音がする。 肌を撫でる手が耳から首筋へと流れて、「っ!」必死で俺は身をよじる。でも、どうしようもなかった。 俺のこの格好は、後藤にされたのか? それとも、この誰かに? 「っゃ、めろ…ッ、触る、な…っ!」 後藤は? 本当に居ないのか? ──無事なのか? ひゅっ、と喉が鳴った。後藤。後藤、こわい、後藤、無事で、どうか。 混乱した頭の中はひっくり返した玩具箱みたいに取り留めなく、そんな俺に構わず誰かの手は喉を、鎖骨を過ぎて、俺の身体の上に掛かった布団を押しのけながら胸元へと滑ってくる。 悪ふざけ? 岡部とぐるになってまた撮影でもしてる? そんなことも脳裏を過ったが、彼らのような容赦のない触れ方ではなく、相手も緊張して遠慮している、そんな触り方だった。 薄く指先が肌を撫でるのに、ぞわぞわする。 そんな触り方だから、この行動の真意がどこにあるのか分からなくてこわい。犯される──よりも、殺されるかもしれない恐怖が勝る。 [*前] | [次#] 『学校関連』目次へ / 品書へ |