イケナイコト

02


 哲太がなんとか正体不明の違和感をやり過ごしていると、がちゃ、とドアが開く音がした。

――ヤベッ…!

 慌てて吸殻を壁のタイルに押し付けて火は消したものの、立ち込めた匂いはすぐに消えるものではない。
 トイレに入って来た人物もそれに気付いたのだろう。唯一扉の閉じている、哲太のいる個室のドアをどんと叩いた。

「だだッ、大丈夫ですか?! かっ火事――…!」
「ッ!」

 その声。

 哲太は思わずドアを引いて、喚こうとした相手――誠を、個室に引っ張り込んで口を塞いだ。
 誠は真ん丸な目のまま、哲太を見上げる。
 手に触れるのが誠の柔らかな唇であることが突然意識されて、哲太はすぐ手を離した。

「日高、くん?」

 ずれたノンフレームの眼鏡を直して、誠は首を傾げる。また、気持ちがざわつき始めた。思わず舌打ち。

「な、んでお前がこんな時間に、こんなとこに来んだよ」

 生え抜きの優等生が、授業を抜け出すなんて。
 言うと、誠は困ったように眉根を寄せた。

「あ、先生がね、日高くんの出席がそろそろマズいって言ったから、じゃあ探してきますって言って、」
「…同情してくれたわけだ」

 結構な理由だ。
 冷えた声が出た。誠の顔が瞬時強張る。

「そ、そんなつもりは…。あ、あの、そ、それよりもさっき、火事みたいな、」


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