せんぱい!

02


 上総は微笑み、手にした自分のカップも干した。

「…それで。どうかな、生徒会」

 切り出すと、きゅ、と眉を寄せて、望は悩ましげな顔をした。

「え、っと」
「どこか、入りたい部が?」
「あ、いえ! でも、その、僕は頭も悪いし、生徒会なんて凄そうなところ…入っていいのかなって」
「凄そう? 何が?」
「あ、あの、だって、柳本先輩の、凄いって噂、僕、色々聞きましたし…」
「あはは、何ソレ」

 才色兼備だとか、文武両道だとか、言われているのは上総も勿論知っている。
 だが、気にしない。そういうキャラクターを演じている。

「関係ないよ。僕が入瀬くんとやりたいと思った、それだけで…あと必要なのは、入瀬くんの意思だけだよ」

 優しげな笑顔を作る。陥落まで、あと少し。
 適度に押したら、あとは引く。

「ああ、でもやっぱり、ちょっと強引だったかな。鬱陶しかったよね。ごめんよ」
「そんな! そんなこと、全然っ…。その、僕で、いいならっ」
「ホント?」


 堕ちた。


 はい、と元気に応じる望に、上総はニヤとほくそ笑む。

「ありがとう、嬉しいよ。ね、望って、呼んでもいい? 僕、名前で呼ぶのが好きなんだ」

 嘘だが。征服するのに、敬称は邪魔だ。

「え…っ、あ、はい、どうぞ!」
「僕のことも、上総に先輩でいいからね」
「は、はい、か、かずさ、せんぱ…っ、ぁ?」

 カコン、と空のカップが床に落ちる。見る間に望の顔が紅潮し、もじもじと脚を動かし、苦しげにタイを引っ張って緩める。

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