崩落

01


 本気で、教師をやめようかと思った。

 だがあれ以降健汰の態度に変わりはなく、普段通りの日々が過ぎて、依咲は一度きりの悪夢だったのだと思い定め、なんとか忘れようと努めていた。

「依咲せんせー見て見てー!」

 放課後、健汰を含む数人の生徒が、理科の時間に作った凧を見せてくる。休み時間に、競うようにして絵を描いたようだ。

 だが依咲は丁度学年の会議で急いでいて、
「ごめん、明日見せてもらうな!」
 片手を顔の前に立てて、その場を後にした。




 長引いた会議がようやく終り、残った仕事を終えようと教室に戻った依咲は、夕焼けの中にひとりだけ残っている生徒を見て、ぎょっとした。

「健汰…」

 依咲に気付いた健汰が、顔を輝かせた。「先生っ!」駆け寄ってくる健汰からまさか逃げるわけにもいかず、逃げ出したい気持ちを堪えて、依咲は笑顔を作る。

「ど、どうしたの、まだ残ってたの、健汰?」

 平静を装おうとしても、声に動揺が滲む。
 だが健汰は気にする様子もなく、凧を手にしたまま言った。

「先生に見て欲しくて、みんなで待ってたんだよ」
「み、みんな?」
「カズとヨッちゃん。今は下で飛ばそうとしてるんだ」
「そ、そうなのか」

 他の生徒も待っていると言うことに、依咲は安堵した。

「それで、健汰は?」


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