イラスト

オマケSS


 

***

「あ、後藤」
「…え?」

 声を掛けられて振り向いた後藤は、きょとんと目を丸くした。

 彼は素行も授業態度もいいし、成績だって悪くない。だから逆に、他の先生に言わせるとあまり印象に残らないタイプの生徒らしく、彼もまさか名指しで呼ばれるとは思っていなかったのだろう。

「えっと、俺、なにか?」
「確かこないだ、公式の話、岡部としてただろ。判んないとこがあるなら教えるし、あの公式の理解にいい本持ってるから、良かったら貸すから、興味があるならまた言ってくれな」
「え…」
「聞こえちゃってさ。ごめん」

 生徒が数学に興味を持ってくれるのが嬉しくて。その公式は、自分が学生の頃にも不思議でたまらなかったもので。お節介だとは判っていたが、俺はついそう声を掛けていた。

 後藤は目を丸くしたまま、俺の顔を凝視した。

「…青木先生、生徒の名前、みんな覚えてるんですか?」
「ん、まぁ受け持ちの生徒くらいは」
「…そう、ですか」

 その応えに何故後藤の表情が一瞬曇ったのか、そのときの俺には理解できなかった。
 後藤が『唯一』でありたがっていることなど、知る由もなかったから。

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