イラスト

オマケSS


 

***
 まだ幼さが残るくらいの、若い近衛師団員。
 父王の前に跪くその姿。床に伸びた紺色の師団服。彼の場合、それが副師団長の白、師団長の黒に変わるのに、ほとんど時間が掛からなかったから、今となっては稀有な思い出だ。

 面を上げよと言われて、数人の師団員と同時に顔を上げた彼。
 謁見室の奥の厚いカーテンの袖で、カイルは彼を初めて見て、そして恋に落ちた。

 謁見が終って、すぐにカイルは王との顔合わせを終えた師団員達を追った。
 当時、カイルは9歳。彼──サリは、20歳。

「お兄さん」

 突然のカイルの乱入に戸惑う新人達の中で、彼だけが正しく動いた。膝を折って頭を垂れる。彼に倣って、ばらばらと他の新人達も膝をつく。彼に比べてその動きの、なんと鈍く重いことか。

「僕を知ってる?」
「もちろんです。カイル王太子殿下」

 新人とは思えないくらいの落ち着きで、涼しい声で、サリが答える。顔を上げてと王と真似して言ってみると、子供だからと侮らない真剣な視線が向けられて、嬉しかったのを覚えている。

「これから、よろしくね」
「──この身に代えても、お護り致します」

 その恋は、彼が王に近付くほどに、歪んでしまったが。

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